昨年度に引き続き、大学生・大学院生60名を対象とし、セロトニントランスポーター遺伝子多型(5-HTTLPR)に着目して「自己」及び「他者」という刺激が注意の認知過程に及ぼす影響について、事象関連電位を用いた検討をした。結果として、「他者」という刺激は、受動的注意を引き起こすことが示唆された。さらに、「他者」という刺激は、「自己」という刺激よりもより多くの注意が向けられ、その注意は持続されることが示唆された。しかしながら、この実験ではセロトニントランスポーター遺伝子多型との関連は見出されなかった。 従って、今年度は感情調節および共感に影響を及ぼすとされるオキシトシン受容体遺伝子多型(OXTR; rs53576)と5-HTTLPRの相互作用に着目し、社会的行動に関わる性格特性との関連を検討した。対象となった男子大学生113名の遺伝子多型の内訳はs + Aタイプ29名、s + Gタイプ43名、l + Aタイプ18名、l + Gタイプ25名であった。 分析の結果、Big Five尺度、Buss-Perry攻撃性質問紙(BAQ) 、所属欲求尺度において遺伝子多型との関連があることが分かった。すなわち、OXTRのAアレルを持つ被験者は有意にBig Five尺度の「調和性」が低く、所属欲求尺度の得点が低かった。さらに、5-HTTLPR のIアレル及びOXTRのAアレルを持つ被験者は、他のタイプよりもBAQの下位尺度である「言語的攻撃」、「敵意」、「短気」において得点が有意に高かった。 この結果から、5-HTTLPRおよびrs53576多型の両方が、社会的集団の維持に関連する性格特性に影響を及ぼすことが示唆された。
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