研究課題/領域番号 |
15K14622
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
横井 修司 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (80346311)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イネ / 開花シグナル / 気温 / 日長 |
研究実績の概要 |
短日植物であるイネは長日条件から短日条件へと移行させることで幼穂形成が促進されるが、気温がどのように花成シグナルの形成に影響しているか評価した例はない。気温と開花の分子メカニズムを理解することは、頻発する異常気象や今後の温暖化に適応した品種育成や技術体系の確立のために重要な知見となる。そこで本研究では、短日下におけるイネの花成シグナル形成に及ぼす気温の影響を明らかにすることを目的として解析を行った。 日本型水稲品種である日本晴を35日間長日条件下(明期16時間、20℃/15℃)で生育させ、その後短日処理の高気温区(明期12時間25℃/20℃)と低気温区(明期12時間20℃/15℃)でそれぞれ栽培した。いずれの生育条件も水温は全て25℃一定に制御し、イネの生長点が水中に浸るよう水位を維持した。幼穂形成後は温室に移動し、出穂日を調査した。また短日処理開始前日から処理後8日目までの10日間、および短日処理開始から10日目と20日目の合計12点で各日明期開始時から8時間おきに葉を採取し、開花関連遺伝子の発現解析を行った。高気温区と低気温区の出穂日を比較した結果、低気温区に比べて高気温区は13日程早く出穂した。また、幼穂形成日(幼穂長が1.5 mmに到達した日)を調査した結果、高気温区では短日処理後14日、低気温区では27日程度で幼穂形成日に到達した。次にイネの花成シグナルとして知られるHd3aとRFT1の発現量を高気温区と低気温区で比較した結果、高気温区では処理後2日目からHd3aとRFT1の発現量が増加し、8日目にピークに達した。低気温区ではHd3aとRFT1の発現量が4日目から増加し始めたが、8日目や20日目においても高気温区のピーク時に比べて低い発現量であった。また、既知の開花関連遺伝子は日長依存的に発現量が変化した遺伝子と気温依存的に発現量が変化した遺伝子が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水温と気温を独立に制御するシステムを利用することによって、短日下のイネの花成シグナル形成における気温の影響を形態的、分子生物学的に評価することができた。本実験の生育環境下で栽培したイネにおいては、気温が5℃異なることによって幼穂形成日が10日以上異なることが明らかとなった。既知の開花関連遺伝子の発現解析の結果から、イネの花成シグナルであるHd3aやRFT1の発現量は気温依存的であり、それらの遺伝子の転写を上流で制御するEhd1の発現量も気温依存的に変化した。これらの結果から、イネの生育気温を認識し花成を誘導するシグナル伝達経路は、Ehd1を介してHd3aやRFT1の転写を制御していることが示唆された。さらに今回解析した開花関連遺伝子は、短日処理後2日または3日目から発現量が変化することが示された。これらの結果から、イネは日長や気温の生育環境が大きく変化した場合、3日で生育環境を認識し花成シグナルの形成を始めることが示された。以上のことから、当初計画していた研究は概ね遂行された。
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今後の研究の推進方策 |
イネにおける気温依存的な開花促進経路はEhd1を介していることが示されたため、日本晴を背景としたehd1変異体やehd1機能欠損アリルを持つ系統を用いて、異なる生育気温下における形態的及び分子生物学的解析を行うことで、気温依存的な開花促進経路におけるEhd1の機能を明らかにする。また、花成シグナルであるHd3aやRFT1の発現量は高気温区に比べて低気温区では顕著に低かった。低気温区ではどのようにして花成を誘導しているのか明らかにする。Hd3aやRFT1のタンパク質の挙動を確認するために、それらのタンパク質と蛍光タンパクを結合したコンストラクトを導入した形質転換体を用いて解析を行う。イネは3日で生育環境を認識し花成シグナルの形成を始めることが示されたが、一部の開花関連遺伝子でのみ発現解析を行ったため、イネがどのようなシグナル伝達経路を用いて、生育環境を認識しているのかは不明瞭である。そこで短日の高気温処理と低気温処理を行う前日から、処理後5日目までの葉を用いてRNA-seq解析を行うことで、イネの生育環境認識に関わる分子ネットワークを網羅的に明らかにする。以上の結果から、生育気温の変化に対してイネがどのように応答し、花成を誘導しているのかを明らかにする。
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