短日植物であるイネは長日条件から短日条件へと移行させることで幼穂形成が促進されるが、気温がどのように花成シグナルの形成に影響しているか評価した例はない。気温と開花の分子メカニズムを理解することは、頻発する異常気象や今後の温暖化に適応した品種育成や技術体系の確立のために重要な知見となる。そこで本研究では、イネの花成シグナル形成に及ぼす気温の影響を明らかにすることを目的として解析を行った。 水温と気温を独立に制御するシステムを利用することによって、短日下のイネの花成シグナル形成における気温の影響を形態的、分子生物学的に評価した。既知の開花関連遺伝子の発現解析から、イネのフロリゲンをコードするHd3aやRFT1の発現量は温度依存的に変化し、その上流のEhd1の発現量も同様に変化することを見出している。さらなる発現解析の結果から、Ehd1と同様にHd3aやRFT1の転写を調節するHd1の発現量は温度によって変化しないが、Ehd1の転写を調節するEhd2の発現量は温度依存的に変化することが示された。また、独立した実験系において、ehd2変異体は長日条件下において温度依存的に異なる表現型を示すことを見出している。これらの結果から、Ehd2-Ehd1-Hd3a/RFT1のシグナル伝達経路がイネの温度依存的な花成シグナル形成に重要であることが示唆された。しかしながら、Hd3aやRFT1のタンパク質が温度依存的にどのような挙動を示すのかは不明瞭である。また、Ehd1やEhd2が温度依存的にどのように機能しているかを明らかにするためにさらなる実験が必要である
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