1)細胞質置換系統CSおよび正常細胞質系統(gen)-CSにおけるVRN1遺伝子のエピジェネティック制御機構の解明 コムギ品種「Chinese Spring」(CS)および近縁野性種Aegilops geniculata細胞質を導入した細胞質置換コムギ系統((gen)-CS)(花成遅延を誘発)を材料に用いた。免疫クロマチン沈降(ChIP)-qPCR解析の結果、第1エキソンで、CSでは3つの同祖遺伝子すべてにおいて、春化によりH3K4me3の程度が上昇したが、(gen)-CSでは減少した。一方、遺伝子発現の抑制指標であるH3K27me3の程度は、両系統ともに春化によりの3つの同祖遺伝子のすべての領域で減少した。以上より、VRN1の発現減少及び花成遅延には、春化による第1エキソンにおけるH3K4のメチル化修飾程度が重要であることが明らかとなった。このメチル化修飾の変化は細胞質を置換することによって影響をうけることから、ミトコンドリア由来の何らかのシグナルが関与している可能性が示唆された。 2)ミトコンドリア「春化センサー遺伝子」の同定 CSおよび(gen)-CSのRNAを用い、RNA-seq解析により、両系統から網羅的に発現遺伝子断片のリードを得た。コムギEST配列にヒットしないリードはミトコンドリアゲノム由来の転写産物であると考えられた。RNA-seq解析と発現解析により、キメラ構造かつ塩基配列の一部が重複するORF165(CSミトコンドリアゲノム由来)及びORF550((gen)-CSミトコンドリアゲノム由来)が存在することを見出した。モチーフ検索及び膜タンパク質判別から、ORF165及びORF550共にPhotosystem IpsaA/psaBタンパク質のモチーフをもち、かつ膜タンパク質をコードする新規遺伝子であることが予測された。
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