研究課題/領域番号 |
15K14630
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
野々村 賢一 国立遺伝学研究所, 実験圃場, 准教授 (10291890)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イネ / 生殖細胞 / TRAP法 / INTACT法 / 細胞単離 / 植物 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
植物の生殖細胞発生の包括的な理解には、生殖細胞のみを正確に単離し、DNAやRNA、蛋白質の抽出に供試する技術が必要となる。そこで本課題では、イネの減数分裂期の生殖細胞を単離し、各種のゲノムワイドな解析に資する技術開発を目的とした。 当初は、減数分裂前の生殖細胞特異的に発現するイネMEL1遺伝子を利用して、マイクロマニピュレーター(MM)あるいはセルソーター(CS)による細胞単離を計画した。しかし申請予算の減額のためMMが購入できなかった。また、CSの前処理として細胞壁の分解により組織から細胞を遊離する行程が必要であるが、カルスを用いた予備実験で、遊離細胞はしばしば細胞塊を形成し、CSに不向きであると予想された。 そこでIsolation of Nuclei Tagged in specific Cell Types (INTACT)法およびTranslating Ribosome Affinity Purification (TRAP)法のイネ生殖細胞への適用を試みた。両法はそれぞれ、標識した核膜蛋白質あるいはリボソーム蛋白質を特定の細胞で機能するプロモーター(pr)で発現させ、標識を利用して特定細胞の細胞核あるいはリボソーム結合mRNAを単離する手法である。 今年度は、核膜結合蛋白質RanGAPおよびリボソームサブユニットRPL18をコードするイネ遺伝子に着目し、MEL1 prを用いてTRAPやINTACTに利用可能な形質転換イネを得ることができた。RPL18とRanGAPのN末端はそれぞれ、FLAGペプチドと蛍光蛋白質GFPで標識されている。35S prを用いたイネで、RPL18は予想通りの細胞内局在性を示した。MEL1 prを用いたイネについては、平成28年度の前半までにRPL18およびRanGAPの生殖細胞内局在を確認できる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究成果の概要」で述べた理由から、当初計画していたマイクロマニピュレーターあるいはセルソーター(CS)を用いた生殖細胞の単離法の確立は、本課題期間中での実施が極めて困難な状況となった。また、CSの本課題への適用を検討する予備実験にも時間を取られ、年度の半ばになってから方針転換を決断せざるを得なかった。最終的に選択したINTACTおよびTRAP法は、申請時に予定した手法とは全く異なるため、進捗を当初計画に照らし合わせて記述するのは難しいが、来年度早々には生殖細胞核や生殖細胞特異的mRNAの単離を検証する目処が立ったものの、残念ながら当初計画からはやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロマニピュレーターおよびセルソーター(CS)を用いた方法は、セルラーゼやペクトリアーゼなどの酵素を用いて、生殖組織から細胞を遊離させる必要がある。またCSではGFPなど蛍光蛋白質による特定細胞の標識化が前提となるが、GFPが固定処理により蛍光能を失うため、CS解析は生細胞を用いる必要がある。酵素処理や細胞収集作業の過程では、mRNA分解など細胞へのダメージが無視できない。特に生細胞を用いる場合は、細胞周辺環境の変化により、単離行程に時間がかかればかかるほど遺伝子発現パターンが影響を受け、生体内における発現パターンとは懸け離れた結果が得られる危険性が極めて高い。 その点、INTACTおよびTRAP法では、組織を固定した後で特定の細胞の核、あるいはリボソーム複合体を単離することができる。まず組織の固定処理を行うことにより、サンプリング直後の遺伝子・蛋白質発現パターンの固定化が可能となり、生体内の状態をより忠実に再現できる可能性が高い。本課題の年度途中における方針転換は別の理由によるものだが、結果として本課題の目的により適した手法を選択することができた。従って、今後もINTACTおよびTRAP法のイネ生殖細胞への適用を目指して研究を進めていく予定である。 最終年度である平成28年度の早い段階で、標識したRan-GAPおよびRPL18蛋白質が期待通りの生殖細胞内局在性を示すかどうかを、27年度作成の形質転換イネを用いて確認する。そして28年度末までに、両法がイネ生殖細胞に特化した遺伝子発現やクロマチン修飾などの網羅的な解析に適用可能であるかどうかを検証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に計画していた研究手法を、諸々の事情から全く異なる手法へと変更する必要が生じた。最初の計画では、平成27年度の使用予定額の大半を、マイクロマニピュレーター購入のための初期投資に当てていた。しかし新たな方法では、特殊な備品の購入の必要がなくなり、その分を28年度で得られるであろう結果の検証に投資することが、本課題の成果を充実させる上でより効果的であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額 2,020千円(交付内定額1,200千円+繰越し額820千円)の使用計画は以下の通りである: 物品費 1,620千円(薬品類 45千円、プラスチック製品40千円、キット類 1,200千円、植物育成用品150千円、形質転換温室用灯油35千円、酵素類 150千円)、その他 400千円(英文校閲 100千円、学術雑誌投稿料 300千円)
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