植物の生殖細胞が減数分裂に至る過程の遺伝的制御ネットワークの解析は、減数分裂組換えの仕組みや生殖的隔離機構など、遺伝・育種の根幹をなす現象を理解する上で重要である。生殖細胞発生の包括的な理解には、生殖細胞のみを単離し、DNAやRNA、蛋白質の抽出に供試する技術が必要となる。本研究では、減数分裂期前のイネ生殖細胞で特異的に発現するMEL1遺伝子のプロモーター(pMEL1)を利用した生殖細胞核の単離法、いわゆるIsolation of Nuclei Tagged in specific Cell Types (INTACT)法、の開発を試みた。 pMEL1にイネRanGAP蛋白質の核膜結合ドメイン(WPP)・蛍光蛋白質GFP・3xFLAGをコードする融合遺伝子(WGF)を繋いで(pMEL1:WGF)、イネのカルスに導入した。その結果、26個体の独立した形質転換イネが得られ、うち13個体で減数分裂前の雄性生殖細胞の核周縁にGFP蛍光シグナルが検出された。しかし期待に反して、穎花の基部を構成する体細胞にも非常に強いシグナルが検出された。 形質転換第一世代種子から増殖した第二世代のイネから減数分裂前の幼穂を採取し、常法により核を単離して蛍光顕微鏡下で観察したところ、GFP陽性の核が一定数確認できた。そこでGFP市販抗体を用いて核抽出液を免疫沈降し、沈降画分を観察したが、核の回収率が悪く、GFP陽性の核も非常に少なかった。種々の条件を検討したが改善されず、残念ながら当初目的の達成、すなわち生殖細胞特異的なDNAあるいはRNA濃縮の確認には至らなかった。 本研究により、pMEL1の生殖細胞核単離への利用の有効性が確認されたが、同時に、穎花基部の体細胞でも発現するなど、サンプリングの際に注意を要することがわかった。生殖細胞核の核単離条件の検討は今後の課題である。
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