研究課題/領域番号 |
15K14636
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
萩原 素之 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (90172840)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ダイズ / 種子冠水抵抗性 / 吸水 / 種皮 / 子葉 / 品種間差 |
研究実績の概要 |
種子冠水抵抗性の異なる5品種を用い、冠水条件下で発芽成長の評価試験を行って種子の冠水抵抗性高をPeking、黒千石、ミヤギシロメ、中を晩酌茶豆5号、低をあやみどりと判定した。一方、種皮除去と無処理の種子の吸水試験から、種皮の透水性はPeking、黒千石、晩酌茶豆5号が高、ミヤギシロメは中、あやみどりは低と判定された。また、吸水種子からの蒸発量測定により、子葉への水浸透性はPeking、黒千石が低、晩酌茶豆5号、ミヤギシロメ、あやみどりは高と判定された。さらに、蒸発量と吸水量の比(E/A)の結果から、種皮除去でE/Aが低下したPeking、黒千石、晩酌茶豆5号では、種皮が子葉への水浸透を抑制していることが示され、E/Aに差がなかったミヤギシロメでは種皮と子葉の透水性に大差がないこと、E/Aが種皮除去で増加したあやみどりでは種皮が子葉への水浸透を促進していることが示され、E/Aは種子の吸水特性の品種間差を示す有用な指標であった。 吸水量と蒸発量は浸漬開始後短時間(60~120分まで)は種子の初期含水率で大きく異なったが、E/Aでは初期含水率の影響が大幅に小さかった。つまり、E/Aは種子の初期含水率によらず品種固有の値を示すことが示唆された。さらに、E/Aは、吸水量や蒸発量に比べて品種間の変動係数が大きく、安定していた。よって、E/Aは種子の初期含水率の影響を受けず、種子吸水特性の品種間差をよく表す優れた指標であることが示された。 ミヤギシロメが過湿条件下での発芽に優れるのは、吸水時に種子が膨らみにくかったため、種子組織が損傷しにくいことが関わっていると示唆された。 以上の結果を総合することで、種子吸水特性の構成要素を種皮の透水性、子葉表面の透水性、子葉組織の水浸透性の3つに分解し、供試5品種の種子吸水特性の支配要因を説明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
供試品種数は当初計画ほどに増やせていない。これは、供試品種数を増やそうとすると、データの精度を担保するために必須の準備作業である、種子の初期含水率の調整や種子の手作業での入念な選別作業の手間・時間が大きく増えることによるものである。 一方、本研究の最重要ポイントである、「種子冠水抵抗性の選抜を効率化しうる新しい選抜指標の確立」という点では、吸水種子からの蒸発量/種子の吸水量(E/A)が冠水条件下での発芽成長と相関を示すとのデータ蓄積が進行している。平成28年度に、E/Aは種子の初期含水率の影響を受けにくいとの結果を得たことは重要である。これを充分に確認すれば、種子の冠水抵抗性に関する選抜にあたり、種子の初期含水率を揃える操作が不要になるので、選抜効率化に繋がる成果である。E/Aは種子の吸水量と比較すると、品種間の変動係数が大きい結果を平成28年度に得たことも、E/Aが選抜指標として優れていることを示唆するもので、さらに確認が必要であるが、選抜効率化に繋がる成果である。 以上の成果は、種子の冠水抵抗性選抜の効率化に繋がると期待できるもので、本研究の目的の最重要点における確実な前進を示すものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
ダイズの種子冠水抵抗性の育種的改良には選抜指標の確立とともに、選抜効率の向上が求められる。 選抜指標については、本研究で種子からの蒸発量/種子の吸水量(E/A)の有用性が示された。すなわち、E/Aは種子吸水特性の品種間差をよく表し、冠水条件下での発芽成長との相関も認められた。また、吸水過程での種子の膨らみ方の違いも冠水条件下での発芽成長の良否に関与する可能性が示唆されたため、吸水過程での種子の膨らみの品種間差を引き続き調べ、冠水条件下での発芽成長との相関関係を検討する。 上記のように、有望な選抜指標を見いだしつつあるが、これらの選抜指標で効率的に選抜を行うには、これら指標が、種子の初期含水率が異なる場合でも種子の吸水特性を適正に示すものである必要がある。従前の研究では、種子の初期含水率は吸水特性に大きな影響を与える要因とされ、種子吸水特性の品種間差の評価には初期含水率を揃えることが必須とされているが、この操作には手間と時間を要し、選抜効率化の大きな障害となるからである。 E/Aは種子の初期含水率の影響を受けず、品種固有の種子吸水特性を示す指標であること、品種間に大きな差異があることが示唆されたため、E/Aは選抜の効率化に有用な指標となり得る。今後の研究で供試品種数をさらに増やすなどにより、この点を追究する。 種子の水分活性については当初予想したほどの有用性が認められる結果は得られていないが、水分活性の有用性の検討は継続する。 最終年度である平成29年度は、種子冠水抵抗性が高い(あるいは低い)のではないかと思われる在来品種を含めて供試品種数をできるだけ増やし、本研究で提唱する選抜指標の有用性をより確かなものにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規購入した水分活性計の測定所要時間が想定を大幅に上回ったため、初年~2年目に測定方法等を検討し、一定の測定時間短縮の手順を確立した。一方、2年目の調査で、種子冠水抵抗性の評価には水分活性よりも吸水過程での種子体積変化の測定が有効と示唆された。 そこで、2年目は水分活性測定から種子体積測定に重点を移したが、体積測定の所要時間、測定精度と再現性には改善が必要と認められた。要求条件を満たし、導入可能な体積測定機器として土壌物理性測定器(メーカによれば種子体積測定への利用例はない)に辿り着いたのは平成28年度末であった。 つまり、データの精度をより高いものとするため、水分活性は測定手順を変更しての調査やり直し、種子体積測定は測定機器を購入して測定方法を変更しての調査やり直しをすることとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
1.調査の効率化と測定データの精度・再現性向上のため、種子体積を短時間で測定できる機器(40万円強)を購入する。 2.種子の吸水特性と種皮などの種子組織との関係の検討のため、種子サンプルへの前処理なしで観察可能な走査型電子顕微鏡による調査(機器を貸し出す会社に出張しての調査)を検討する。 3.平成28年度は天候不良のため、種子増殖栽培での収穫量が充分ではなかったため、必要な種子は積極的に購入する。また、種子増殖栽培のための資材等も充分に購入し、必要種子量の確実な確保をする。
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