研究課題/領域番号 |
15K14637
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
東江 栄 香川大学, 農学部, 教授 (50304879)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アイスプラント / ATP / 塩生植物 / 好塩性 / 細胞伸長 / 細胞分裂 |
研究実績の概要 |
通常の作物はNaClによって強い生育阻害をうけるが,ある種の植物は他の植物が枯死するNaCl濃度で逆に生育が促進される.NaClによる生育促進効果,「好塩性」の分子機構を明らかにするために,1)ミトコンドリアのおけるATP合成能,2)細胞周期を同調化した細胞の細胞分裂,及び3)浸透圧調整を介した細胞伸長等に及ぼすNaClの影響を検討した.1)については,100mM及び400mM NaCl処理した個体からミトコンドリアを単離し,NaClを含む反応液でATP合成能を測定した.いずれもNaCl存在下でATP合成量が増加したが増加量は350mM NaCl下で最大となり,対照区より最大で約60%増加した.この現象は浸透圧だけを高めた反応液では観察されなかったことから,ATP合成能の増加は浸透圧ではなくNaClの影響によると考えられる.2)については,前年度アフィディコリンによる同調化が困難であったことから,同一サイズの細胞を得るために長期間(1年以上)培養を続け大きさを均一化した.この細胞にショ糖,リン酸及びオーキシン欠乏処理を施した.リン酸欠乏処理を24時間行った細胞では,S期のマーカー遺伝子であるHistone H4が発現しておらず,同調化されたことが明らかになった.この細胞の細胞周期に及ぼすNaClの影響を調べるために,G1期,S期及びG2期で働くアイスプラントの遺伝子をそれぞれ5種,及びM期で働く遺伝子を6種,研究連携者の構築したcDNAデータベースから取得した.3)については,トランスポーター,チャネル,H+-ATPase等,合成8種の遺伝子に加え,新たにアニオンチャネル遺伝子及びK+/Cl-子トランスポーターを,2)と同様に取得した.NaCl処理による細胞の伸長に先がけて,McHKT1とVmac1がそれぞれ処理後12時間及び48時間後に強く発現することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画には,1.ATP合成能に対するNaClの影響に関する継続調査,2.ラン藻等で報告のあるNa+依存性ATPシンターゼ情報を基にしたアイスプラントホモログの単離,3.阻害剤を用いたATP合成作用機作の解析,4.サブトラクティブハイブリダイゼーション(SSH)法によるNaCl誘導性遺伝子の単離,5.好塩性関連遺伝子の全長単離と遺伝子導入用ベクターの作成等を挙げていた.1.については上述のとおり,好塩性に対するNaClの直接的な作用であることを明確にした.2.については,他種の既知情報を基にアイスプラントcDNAデータベースから情報を得た.3.については,より純度の高いミトコンドリア単離法を再検証し十分な量を得ることができた.4.については,SSH法で得られると予想される機能未知の遺伝子の解析を進める前に,NaCl処理に伴う代謝産物の変動を調査した.ガスクロマトグラフィーを用いて最大約250個の代謝産物を調べ,NaCl処理に伴いクエン酸回路中間代謝産物の含量が変動していることを明らかにした.ATP合成能の活性化を傍証するものとして期待された.5.で明らかになったNaClによって発現が誘導される遺伝子のいくつかについては,cDNA全長塩基配列を取得し導入ベクターの構築を行いつつある.このように,一部の計画にはやや計画のとおりにはすすめられなかったが,それ以外は概ね計画通り進捗しており,派生して行った関連実験の中から新しい興味深い知見も得られている.さらに国際シンポジウムにおいても発表できたことから,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,以下の反応に対するNaClの影響を明らかにすることで,NaClによる成長の促進作用を明確にしたい.すなわち,1.細胞の伸長,2.細胞の分裂,及び3.ATPの生成である.まず,細胞の伸長に関しては,新たに加えたアニオンチャネル,及びK+/Cl-コトランスポーター等の遺伝子発現解析とあわせ,浸透圧の上昇から水の取り込みを経て誘導される細胞の伸長に及ぼすNaClの影響を明確にする.細胞の分裂に関しては,細胞周期を同調化させるために必要な薬剤あるいは栄養素の効果をよくするために,個々の細胞が独立した均一の大きさの細胞が必要となった.細胞濾過して継代する作業を長期間(1年以上)繰り返した結果,均一な大きさの細胞を得ることができた.最も効果的だったのはリン酸欠乏処理であった.この方法を用いて,細胞分裂に関連する遺伝子の発現解析を行いNaClが細胞周期のどの時期に最も強く関与して細胞の増殖を向上させているのかを明らかにする.具体的には,シロイヌナズナの遺伝子情報を基にアイスプラントから単離した各細胞周期に関連する遺伝子16種の発現解析を行いNaClによる成長促進にこれらの遺伝子が関与していることを明らかにする.ATP合成に関しては,高等植物に共通するATP合成機構をNaClが活性化しているのか,あるいはラン藻類のようにH+の代わりにNa+を用いてATPを合成しているのかを明らかにする.前者に関しては,ATPシンターゼ阻害剤を,後者に関しては膜を介したNa+濃度勾配を解消する薬剤を処理し,処理前後のATP合成量からNaClの影響を評価する.バリノマイジン,CCCP,DCCP,及びモネンシン等の薬剤の影響を検討する.ATP合成に及ぼすNaClの影響については,国際シンポジウムで1報発表した.論文に取りまとめ発表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に必要な物品の価格が発注当初把握していた額よりも低く設定されたものがあったため.
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品に使用する.
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