塩害の主要因であるNaClは、植物の成長を著しく阻害する。しかし、塩生植物とよばれる耐塩性の高い植物は、ある程度の濃度のNaClで成長が促進される。本研究はこの「好塩性」のメカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的とした。植物の成長は、細胞の分裂と伸長・肥大によって決定される。アイスプラントの懸濁培養細胞を用い、細胞の分裂及び伸長・肥大に対するNaClの効果を調べた。 1.最終年度に実施した研究の成果 同調培養の条件を種々検討し、3日間リン酸を欠乏する処理が細胞分裂の停止に最も効果的であることを見出した。リン酸の再施与後24-26時間後のおける分裂指数は約20%であり、他種で報告された値と同程度であった。調べた11種の細胞分裂関連遺伝子のうち、B2型サイクリン依存性キナーゼの発現量がNaCl処理後2日から増加することを明らかにした。ATP合成能に及ぼすNaClの効果の要因を明らかにするため、解糖系、ATP合成、及びTCA回路に関与するシロイヌナズナの遺伝子と相同性の高いアイスプラントの遺伝子を12種単離した。得られた成果をまとめ国際会議で2報発表した。 2.研究期間全体を通じて実施した研究の成果 NaClが細胞の分裂及び肥大に効果があることを初めて明らかにした。前者は、B2型サイクリン依存性キナーゼの発現の増進によって、後者は、数種のトランスポーター遺伝子の発現量の増進によって促進されることを明らかにした。また、ミトコンドリアのATP合成が、NaClによって促進されることを初めて明らかにした。増加率は最大約60%であった。いずれも前例のない新規な発見であり、NaClを積極的に活用する新しい耐塩性作物の作出にとって重要な示唆を含む成果である。
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