研究実績の概要 |
アカザ属の11種を夏期に育成し、光合成・光呼吸特性を調査した。また、シロザを温度と土壌窒素分を変えて育成し、光合成・光呼吸特性の発現に及ぼす環境の影響を調査した。葉切片を光顕で観察した。また、葉組織における光呼吸酵素グリシンデカルボキシラーゼ(GDC)の局在性を免疫組織学的に調査するとともに、CO2補償点を測定した。 アカザ属植物では維管束鞘細胞(BSC)に含まれるオルガネラの量と配置に連続的な変異が見出された。3種はBSCに葉緑体やミトコンドリアをあまり含まないC3型、4種はBSC内に求心的に配置したオルガネラを多く持つproto-Kranz型、2種はこれらの中間的な特徴を示した。残りの2種はBSC内に求心的に配置した多量のオルガネラをもつC3-C4中間型であった。CO2補償点は葉の内部構造と一致して、C3型からC3-C4中間型の値まで連続的に変異した。このようにアカザ属ではC3型のほかproto-Kranz型やC3-C4中間型を含み、C4植物の初期進化過程を研究する上で価値があることが見出された。 シロザでは、低温より高温で、また標準区より低窒素区で、葉肉細胞に比べBSCにおけるGDCの蓄積割合が増加するとともにCO2補償点が低下することを見出した。このように、シロザでは高温および低窒素土壌環境で生育するとC3-C4中間特性が強く発現することを明らかにした。 イネ科C3,C4種の葉肉細胞におけるミトコンドリアの細胞内配置を調査した。C3種の葉肉細胞では、ミトコンドリアは光呼吸によるCO2の損失を抑制するように葉緑体の内側に配置しているが、光呼吸によるCO2の発生がないC4植物の葉肉細胞では、ミトコンドリアはこのような配置を示さず、細胞壁に隣接して配置していることを明らかにした。
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