菌根菌は、植物と共生関係を築く土壌微生物であり、自然環境の維持や安心・安全で持続可能な作物生産の構築に非常に重要な役割を果たしている。この菌の中で、外生菌根菌は菌糸が白く,肉眼で容易に判別できるが、ほぼ全ての植物と共生するアーバスキュラー菌根菌(AMF)などの菌根菌は菌糸がほぼ透明であるので、非常に観察しにくい。そのため、トリパンブルーなどの染色液で菌を染めて観察する標準的な方法が広く導入されているが、この方法は非常に煩雑であるとともに、AMFと根の組織を明確に区別することが難しい。 最近、筆者らはこれまでに発見していた菌根共生に関与する24 kDaのタンパク質を大量に分離・精製することに成功し、フルオレセイン標識抗体を開発した。この抗体を用いた菌根菌検査薬は蛍光顕微鏡下で様々な菌根菌を容易に検出できることを明らかにした。 そこで、平成27年度は農業現場などでも簡便に菌根菌を観察できる新開発の携帯型蛍光顕微鏡装置を作り上げた。本年度は、この装置と世界初の菌根菌検査薬を用いた簡便な菌根菌観察のための新技術の開発を試みた。 その結果、本技術で、AMF、エリコイド菌根菌、ラン型菌根菌、外生菌根菌などのいずれの菌根菌も容易に観察できた。また、ラン型菌根菌と同属の代表的な植物病原性糸状菌、Rhizoctonia solaniだけが蛍光を発したが、AMFとR. solaniの区別を撮影画像における隔壁の有無で容易に判別できた。なお、本装置のさらなる改良も行った。 このように、本技術によって菌根菌の観察が非常に容易に行えるようになったことから、AMFの働きを踏まえた研究が飛躍的に進展することが予想される。特に、この技術は、菌根菌の存在がなくしては成り立たない、安心・安全で持続可能な有機あるいは化学肥料や農薬を大幅に削減した作物生産体系を推進する上で、大いに貢献すると考えられる。
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