研究代表者は,いくつかの辛味性のあるトウガラシ果実を切断し,そこに水を噴霧することで咳嗽(咳き込み)成分が放出されることを見出した.平成29年度はその成分を特定することを目的に,香気成分組成が単純でかつ咳嗽性を示す実験材料として,‘日光’の乾燥果実を実験材料として絞り込み,ガスクロマトグラフィー分析を中心とした研究を進めている. ‘日光’の乾燥果実は,切断しただけでは咳嗽性を示さないが,そこに水を噴霧すると咳嗽性を示すことから,水を噴霧する前後の香気成分の発散特性に絞り,発生する香気成分の分析を固相マイクロ抽出(DVB/CAR/PDMSを使用)法とTenax TAカラムによる全量吸着ー熱脱着法によりDB-WAXカラムを用いて分析した.その結果,水噴霧前にはリテンションインデックス(RI)の大きなな(1800~2000)5つのピークが検出されていたものの,水噴霧後はこれらのピークが完全に消失し,香気成分としてはRIの小さな(1100~1200)4つのピークが検出されるのみとなった.ただし,RTが近いことから匂い嗅ぎによって,これらの成分の咳嗽性を判別することは困難であった.また,GC-MS分析の結果から,水噴霧後のピークの内の一つは酢酸イソアミル(RT:12.96)であると推定された.ただし,この成分には咳嗽性は認められていない.また,エステルである酢酸イソアミルが水噴霧後にどのようにして生成されたのかも不明であり,MSチャートが類似する別の物質である可能性も否定できない.現時点では,マイナーピークに咳嗽性がある可能性は否定できないものの,ここで得られた4つのピークに絞り込みを行って,今後の解析を進める計画である. 一方,前年度の実験で水噴霧後の‘福耳’において検出されたRIの極めて大きいピークは‘日光’の乾燥果では検出されず,咳嗽成分がこのピークである可能性は否定された.
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