研究実績の概要 |
本研究では, 六倍体である栽培カキと広い倍数性の幅を持つ近縁種を用いて, カキ属 (Diospyros属) 植物におけるゲノム倍化が栽培上の重要形質「果実形・サイズ」および「性表現型」の多様化に関わる機構を検討した. 果実形を量的パラメータとして扱うため, SHAPEプログラムによって栽培ガキ157品種および野生近縁二倍体種であるマメガキ・アプラガキと野生近縁六倍体種であるD. rhombifoliaについて生育段階の果実形変化パターンを特性化し, 主成分分析によって形の変化を量的値に変換した. 栽培ガキの果実形変化パターンの多様性に最も影響を持つ生育ステージにおいてトランスクリプトーム解析を行い, 果実形変化量に対して有意な相関を示す遺伝子群を網羅的に単離した. 六倍体栽培ガキ種内 (品種間) における形の多様性度は近縁二倍体種との間における多様性度よりもはるかに大きく, この栽培ガキ品種間の形状多様性に特異的に発現相関を持つ因子として, BEL/KNOXホメオドメイン因子やオーキシンシグナル因子・果肉細胞壁の可塑性に関わるexpansin因子などが同定された. 六倍体栽培ガキにおける性表現は二倍体近縁種における雌雄個体が明確に分離する雌雄異株性とは異なり, 雄個体が雌花をも着花する雌雄異花同株性を示す. この原因因子として, 栽培ガキでは性決定因子OGIにおいてSINE様レトロトランスポゾンが挿入されており, これによってOGIの発現が不活化されていると考えられた. また, このSINE様配列は栽培ガキ種全体で保存されており, 倍数化または栽培化段階での強い選抜またはボトルネックがかかったことが示唆された. さらに, OGIの不安定化に代わり, 栽培ガキではOGIの標的遺伝子であるMeGIのエピジェネティック状態が花単位の性決定を統御していることが示唆された.
|