研究課題/領域番号 |
15K14655
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
羽生 剛 愛媛大学, 農学部, 准教授 (60335304)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カンキツ / 裂果 / 気孔 |
研究実績の概要 |
愛媛県では,近年県で育成した‘愛媛果試第28号(紅まどんな)’や‘甘平’といった良食味新品種の栽培が増加し,県内農業の振興に大きく寄与している.しかし,これら優良品種は高価格で取引される反面,その栽培は容易ではなく,特に雨による裂果が問題となっており,裂果の発生機構解明は非常に重要である.そこで,裂果を生じやすい‘愛媛果試第28号’と生じにくい‘せとか’を用いて予備試験を行った結果,‘愛媛果試第28号’は果皮表面からの吸水量や果皮表面の気孔数が有意に多いことから‘愛媛果試第28号’の裂果感受性は果皮表面の気孔数が多く,降雨後果皮表面からより多くの水を吸収するためであると考えられた. そこで本研究では,さらに品種数を増やし,果皮表面の気孔数や果皮からの吸水量について調査した.しかし,気孔数については,‘愛媛果試第28号’が‘せとか’に比べ有意に高かったものの他の裂果しにくい品種とは同程度の値であり,果皮表面からの吸水も裂果多発時期に品種間差や大きな変化はみられなかった.これらのことから,‘愛媛果試第28号’の裂果は果皮の気孔数や果皮からの吸水が特に多いために起きるのではないことが示唆された.一方で,果実肥大の経時的変化を調査すると,‘愛媛果試第28号’は裂果多発時期に最も顕著な果実肥大を示し,この時期の急激な果実肥大が裂果の要因であると考えられた.しかし,同時期に果実肥大パターンを示す‘清見’では裂果が見られなかったことから,裂果は果実肥大の時期や肥大量に加え,果皮の物理的強度が関係していると考えられた.裂果の要因が気孔数ではないことが示されたが,果実肥大の時期や果皮の厚さが裂果に関係していることが示され,遺伝的要因が関係していると考えられるこれらの形質について今後遺伝的な解析を行うことで,裂果非感受性品種の育成の基礎となる知見が得られると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予備試験で得られていた気孔数や果皮表面からの吸水量の品種間差が裂果非感受性品種を増やして調査を行うと,裂果感受性品種と非感受性品種で見られなかったため,当初予定していた気孔数を中心とした調査では裂果の品種間差を明らかにできない可能性が高くなった.反面,果実肥大や果皮の形態的特性との関係が見られたため,気孔に関する詳細な調査を中止し,果実肥大や果皮の調査に切り替え,砂じょうや果皮の観察を追加したが,裂果の機構解明という点では若干遅れ気味になっている.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも述べたように,当初予定していた気孔数を中心とした裂果感受性の品種間差に関する調査では,裂果の発生要因を明らかにすることができないと考えられるため,本年は予定を変更して果実肥大や果皮の形態的特性についての品種間差について調査を行う予定である.昨年度の結果から,裂果発生と果実肥大の関係について調査すると,‘愛媛果試第28号’は最も裂果多発時期に肥大するが,それに次ぐ肥大を示した‘清見’は裂果せず,果実肥大だけではなく果皮の物理的強度が関係している可能性が示された.しかし一方で,果皮の厚さが‘愛媛果試第28号’と同程度の‘せとか’も裂果せず,果皮が薄ければ裂果するというわけでもなく,果実肥大も重要であることが示唆された.以上のことから,裂果には果実肥大と果皮の両方が関係していると考えられたため,本年度は,カンキツ果実の砂じょうの肥大について経時的に調査するとともに果皮の厚さの経時的変化や組織学的観察を行い,砂じょうの肥大や果皮の発育の品種間差について調査し,裂果に関係する要因について検討を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた気孔の解析から果実肥大や果皮へ研究の焦点を変更したため,今年度気孔の分子生物学的解析に用いる予定だった予算を来年度果皮や砂じょうの遺伝子発現解析に充てるため次年度に繰り越した.
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次年度使用額の使用計画 |
果実肥大のパターンや果皮の厚さの品種間差について調査するため,果実肥大期の砂じょうや果皮のトランスクリプトーム解析を行い,品種間で違いが見られた遺伝子については個別に発現解析を行う予定である.
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