研究課題/領域番号 |
15K14656
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
鉄村 琢哉 宮崎大学, 農学部, 教授 (00227498)
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研究分担者 |
冨永 るみ 広島大学, 生物圏科学研究科, 講師 (20373334)
澤 進一郎 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (00315748)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 果樹 / ペプチドホルモン / メリステム / 植物組織培養 / 園芸科学 |
研究実績の概要 |
植物ペプチドホルモンに関する基礎的研究は、近年めざましい発展を遂げているものの、実用化を目指した本格的な実験はほとんど行われておらず、本研究はその実用化を最終目的としているものである。現在、確認されている15以上の植物ペプチドホルモンの中から、ブドウ等の果樹において関連遺伝子の存在と試験管内処理効果を見いだしたCLEペプチドを用い、園芸作物への分裂組織(メリステム)の形成制御機構を明らかにする。 予備実験によりカキ試験管内シュートの発根処理時のCLE25処理により、根の皮層組織の細胞分裂が抑制される傾向はわかっていたが、まだ確証は得られておらず、その最適濃度や最適処理時期については明らかにされていなかった。そこで、種々の処理区を設けて実験を行うとともに、根の凍結切片を作成し、組織および細胞の状態を観察した。一方、このCLE25はCLEペプチドの中でも、糖鎖修飾無しに効果の高いことが認められており多くの実験で使用されているが、シロイヌナズナ突然変異株clavata3を用いて解析が行われ発見されたペプチドホルモンCLV3も、CLE25と同様に処理し、その影響について調査し、CLE25との結果と比較した。 カキ‘平核無’シュートへの発根処理10日目、すなわち根原体が形成したと思われる時期のCLE25の1μM処理により、無処理区と比較し、平均根長の減少および根が細くなるということを明らかにした。また、根の凍結切片を用いた顕微鏡観察によりその処理による皮層細胞分裂の抑制も確認した。さらに、同様の結果がCLV3にも確認され、皮層細胞分裂へ影響も確認できた。 ブドウ根端メリステムへのCLE25処理に関しては、発根処理に用いるNAAの影響が大きく、また複雑であることがわかった。そこで、NAAではなく、IBAをオーキシンとして用いる処理方法に変更した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カキ‘平核無’シュートの発根処理時以降および根原体形成後の発根処理10日目以降のCLE25の1μM処理により、平均根長の減少および根が細くなるという現象を3反復の実験により確証でき、特に後者の処理の方が影響が大きかったことを明らかにした。また、根の凍結切片の観察により、皮層細胞分裂の抑制も予備実験と同様に確認できた。さらに、同様の結果がCLV3にも認められ、組織観察により皮層細胞分裂へ影響および3反復実験により有意な差を明らかにできた。以上より、カキ根端メリステムへのCLEペプチドの影響を明らかにできた。現在、茎頂メリステムに対するCLE25の影響を2層培養や振盪培養等により調査中である。 ブドウ根端メリステムに対するCLE25の影響に関しては、発根処理に用いるNAAの影響が大きく、また複雑であることがわかった。そこで、NAAではなく、IBAを用い、しかも発根培地への添加処理ではなく、カキの発根処理のように高濃度瞬間浸漬処理を用い、IBAの影響をできるだけ小さくする処理方法に変更してCLE25の影響を調査することとし、現在、調査中である。 なお、ストマジェン等、他のペプチドホルモンを用いた実験は、試薬の入手が困難であること、実験手法が複雑になることなどより、CLE25やCLV3を用いた実験を精力的に進めた方が実験の進展する可能性が高いと考えられたことにより、それらに関する新しい知見等が入手できるまでとりあえず延期とした。
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今後の研究の推進方策 |
カキ茎頂メリステムへのCLE25の影響を調査する。根端メリステムと同様、試験管内で培養中の材料を用いるが、根の処理とは異なり、既に形成されている組織に対しての処理になるため、種々の工夫が必要だと考えられる。濃度に関しても、根とは異なることが予想されるので、処理方法と共に検討する必要がある。 ブドウ根端メリステムへのCLE25の影響の調査については、発根処理方法が確定したので、反復実験を行いつつ、得られたデータや顕微鏡観察の結果に基づき、必要であれば改変しながら処理を行っていく。その際、処理濃度の検討も必要であれば行う。また、カキと同様、茎頂メリステムへの処理もカキの実験結果を参考にしながら進める。そしてペプチドホルモンの実用的利用を目指した圃場で成育中のブドウ樹への処理を試みる。 一方、ブドウは、比較的遺伝子情報が豊富なので、CLE25処理でなんらかの効果があれば、その下流で働いている因子についても解析を行う。
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