移動手段を持たない植物は、種子や冬芽などの休眠器官を形成し、成長や活動を休止することにより様々な環境変化に対応することができる。多年生植物であるリンドウは夏から秋にかけて冬芽が形成され冬期に休眠するが、リン酸欠乏条件下でも休眠誘導される。この現象は菌類や細菌類に特有の現象である緊縮応答に類似していることから、植物においても栄養飢餓に応答した休眠機構の存在が推測された。そこで、緊縮応答の鍵遺伝子であるRSHを中心に栄養飢餓と休眠の関与を調査した。リン酸欠乏条件で培養したリンドウで発現解析を実施した結果、RSH1、CRSHの発現が有意に増加し、pppGppからppGppを生産する酵素であるNT5の発現は上昇傾向が見られた。一方、GDPからGTPを生産する酵素であるNDKの発現は減少したことから、リン酸欠乏条件下ではppGppの蓄積が誘導される可能性が示唆された。 前年度作成したRSH1及びCRSHの高発現体を用いてメタボローム解析を実施したところ、明確な代謝変動は検出されなかった。予想される理由として、発現レベルが大幅に上昇していなかったため影響が少なかったこと、RSHはppGppの合成と分解の両方に作用するため十分な緊縮応答が誘導されなかったことが挙げられる。リン酸欠乏条件ではRSHの発現上昇と共にNT5の発現上昇とNDKの発現下降が見られたことから、RSH以外の鍵遺伝子についても調節が必要であることが示唆された。 次世代シークエンサーを用いたRNA-seq解析からRSH1及びCRSHのバリアント情報を取得した。CRSHにはバリアントが検出されなかったが、RSH1では11種のバリアントが検出された。機能性バリアントは、休眠誘導条件で発現したことから、休眠制御に何らかの機能を示す可能性が示された。
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