ファイトプラズマは植物の篩部に局在する微小植物病原細菌であり、植物に黄化・萎縮・天狗巣・葉化などのユニークな症状を引き起こし、世界中の農業生産に甚大な被害をもたらしている。特に植物の花を葉に変化させる「葉化病」は、ときに植物の商品価値を高めることから、植物病防除の観点から大きな問題をはらんでいる。しかしながら、その発症機構はこれまで不明であった。最近、申請者らは、ファイトプラズマのゲノム上にコードされる葉化実行因子「ファイロジェン」と、その分解ターゲット因子である「MADSドメイン転写因子」を明らかにした。また、MADSドメイン転写因子の立体構造が解明された。 本研究では、これら最新の知見をもとに、ファイロジェンによる宿主転写因子群の選択的分解の構造的メカニズムを解明し、葉化病の特効薬開発と実用に向けた新たな技術開発を目指して研究を行っている。ファイロジェンはわずか91アミノ酸の小型タンパク質であり、類似のタンパク質はこれまで報告されていない。これまでに、ファイロジェンタンパク質の大量発現・精製により構造解析を行った。また、核局在性のMADSドメイン転写因子を利用したGFPレポーターアッセイ系を開発し、MADSドメイン転写因子の部分変異体をファイロジェンとともに発現させて核の蛍光の有無を観察することで、MADSドメイン転写因子中のファイロジェン結合領域を特定した。今年度は、これらの情報をもとに、ファイロジェンとMADS転写因子の結合特異性に関わるアミノ酸残基を詳細に探索した結果、相互作用に重要な部位を見出した。本研究により、葉化病の抑制因子や花器官の形態制御技術を開発するうえで基礎となる重要な知見が得られた。
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