申請者らは、リンゴ斑点落葉病菌(Alternaria alternata apple pathotype)の宿主特異的AM毒素の生合成遺伝子(AMT遺伝子)クラスターを同定するとともに、12個のAMT遺伝子のうち5~7個の相同遺伝子が、系統学的に離れたMycosphaerella属菌のゲノム中にクラスターとして存在することを見出した。本研究では、コムギ葉枯病菌(M. graminicola)を用いて、リンゴ斑点落葉病菌の病原性進化をもたらした起源遺伝子群の機能を探ることを目的とする。今年度は、主に以下の研究を実施した。 昨年度、コムギ葉枯病菌のAMT相同遺伝子(MgAMT)を含む約90 kbのゲノム領域から7個のMgAMTを含む13個の第2次代謝関連遺伝子を見出し、この領域がAM毒素と構造が類似した代謝産物の生合成遺伝子クラスターであることが示唆された。そこで本年度は、コムギ葉枯病菌を各種培地で培養し、培養液のコムギ葉とリンゴ葉に対する毒性を検定した。その結果、培地、培養条件によって活性に差があるものの、本菌の培養液がコムギ葉、さらにリンゴ葉に壊死を引き起こし、培養時に毒素を生産する可能性を見出した。 リンゴ斑点落葉病菌とコムギ葉枯病菌の相同遺伝子の機能を比較するために、リンゴ斑点落葉病菌のAMT破壊株のコムギ葉枯病菌のMgAMT遺伝子による変異相補を試みた。MgAMT遺伝子のプロモーターでは、リンゴ斑点落葉病菌で発現しない可能性が考えられた。そこで、約1.0 kb のプロモーター配列と約0.5 kbのターミネーター配列を含む各AMT遺伝子をクローン化し、そのエクソン・イントロン領域をMgAMTに置き換えた変異相補ベクターを作製した。リンゴ斑点落葉病菌のAMT10破壊株を作出し、MgAMT10相補ベクターを導入したところ、AM毒素生産性が回復した。
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