研究課題/領域番号 |
15K14664
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
小林 括平 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (40244587)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 葉緑体 / タンパク質輸送 / 非翻訳領域 |
研究実績の概要 |
本研究は葉緑体形質転換法を用い,感染特異的に葉緑体におけるROS消去系や循環的電子伝達系を増強し,ROS生成を低減して病徴発現を制御することを目的とする.平成28年度は,(1)継続課題としてT7プロモーターの制御下に葉緑体アスコルビン酸過酸化酵素(APX)およびフェレドキシン(Fd)を発現する葉緑体形質転換体の作出,(2)感染特異的PR1aプロモーター(ProPR1a)制御下で,葉緑体局在型T7 RNAポリメラーゼ(T7Rp)を効率良く発現するためのベクター構造の検討を行った. (1)チラコイド型APX(tAPX)およびストロマ型APX(sAPX),4種類のFd遺伝子において,輸送ペプチド(TP)領域を除去したものをT7プロモーターおよびルビスコ大サブユニットの非翻訳領域の下流に導入し,当研究室で確立した手法によってタバコを葉緑体形質転換した.これまでにtAPXおよびsAPXではそれぞれ2および4系統において採種した.また,Fdについても14系統において遺伝子導入を確認し,採種中である. (2)前年度までにProPR1aを用いて葉緑体タンパク質を発現させることが困難であること,外来タンパク質を葉緑体に移行させるのに用いるTPとしてFdのTP(Fd-TP)が好適であることを明らかにした.28年度はmRNAの5´非翻訳領域(5´-UTR)がmRNAの細胞内局在,翻訳効率,翻訳産物の輸送効率などに関与する可能性について検証することを目的とし,FdおよびPR1aの5´-UTRをProPR1aの下流に配し,その下流に挿入したEGFP,Fd-TP-EGFP,およびFd-TP-T7Rpの発現効率を一過性発現系において検討した.その結果,PR1aの5´-UTRは翻訳効率を,Fdの5´-UTRは翻訳効率,および葉緑体へのタンパク質輸送効率を改善することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
葉緑体へのタンパク質の移行はトランジットペプチド(TP)によって支配され,外来タンパク質遺伝子にTP領域の配列を融合することによって,外来タンパク質を効率的に葉緑体に移行させることができることはよく知られており,本研究代表者においても数種類のTPをGFPに融合させることによって,葉緑体に効率よくGFPを局在させることができることを確認していた.しかし27年度までの本研究において,数種類の葉緑体タンパク質,およびRubisCOのTPを融合したT7Rpに関して,感染特異的なProPR1aの制御下では,タンパク質の発現はおろか,mRNAの発現誘導もほとんど観察されなかった.この問題を解決する目的で種々のTPによる葉緑体へのタンパク質輸送効率を比較し,Fd-TPが検討した中で最も効率が良いことを明らかにしていた.しかしながら,少なくとも3種類の葉緑体タンパク質の葉緑体への輸送が,ProPR1aの制御下ではそれら自身のTPによっても効率的でなかったことから5´-UTRがタンパク質輸送効率に影響する可能性を想起し,FdおよびPR1aの5´-UTRによる翻訳効率,およびタンパク質輸送効率を比較検討し,葉緑体タンパク質であるFdの5´-UTRがタンパク質輸送効率を高めることを見出した.これまでタンパク質貯蔵液胞などにおいてはmRNAの局在を規定するmRNA上のcis因子がタンパク質輸送効率を規定していることが知られているが,葉緑体タンパク質の輸送効率に5´-UTRが関与することを示したのは本研究が世界初である.このことと,当初の研究計画に関しては遅延していることを勘案し,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
上述のようにFdの5´-UTRおよびTPを融合することでT7Rpを効率的に葉緑体で発現させることができるのを確認した.これについては,より効率の悪いTPとFdの5´-UTRを組み合わせた場合のデータを追加し,論文にまとめる.また,これによって葉緑体においてT7Rpを発現させることに関する技術的な問題を解決することができたので,今後は当初計画に従って,研究を進める.ただし,T7Rp発現系を導入した形質転換タバコを樹立した後,葉緑体形質転換体と交配するのは長時間を要するため,すでに得られた葉緑体形質体のすべてについて,改良したT7Rp発現系を導入し,感染特異的なROS制御系の発現,および病徴発現に対する緩和効果を評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題に関して28年度に実施した実験については学部4回生1名が担当したが,29年度に担当する学生を確保するめどが立たなかった.そこで,プロトコールを変更するなどして消耗品費等を節約するとともに,主に学内資金で購入した試薬を使用して実験を行うなどして,29年度に本研究課題に係る実験を担当する研究補助員を雇用するための人件費を確保した.
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次年度使用額の使用計画 |
当研究室で29年3月に博士の学位を取得した学生をパートタイム研究員として雇用することによって,本研究課題を強力に推進する.
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