本研究は葉緑体形質転換法を用い,感染特異的に葉緑体におけるROS消去系や循環的電子伝達系を増強し,ROS生成を低減して病徴発現を制御することを目的とする.平成29年度は,(1) これまでに作出したT7プロモーターの制御下に葉緑体アスコルビン酸過酸化酵素(APX)およびフェレドキシン(Fd)を発現する葉緑体形質転換体の採種,(2) 前年度に引き続き感染特異的PR1aプロモーター(ProPR1a)制御下で,葉緑体局在型T7 RNAポリメラーゼ(T7Rp)を効率良く発現するためのベクター構造の検討を行った. (1) 4種類のFd遺伝子から輸送ペプチド(TP)領域を除去したものをT7プロモーターの制御下に発現する葉緑体形質転換体について,前年度作出し,遺伝子導入を確認した14系統中,9系統において採種中を行った. (2) 前年度までにProPR1aを用いて葉緑体タンパク質を発現させることが困難であること,外来タンパク質を葉緑体に移行させるのに用いるTPとしてFdのTP(Fd-TP)が好適であり,さらにFd mRNAの5´非翻訳領域(5´-UTR)が翻訳産物の葉緑体への輸送効率を高めることを明らかにした.そこで,5´-UTRとTPの組合せが輸送効率に重要であるのか,それともFdの5´-UTRがTPの種類によらず輸送効率を高めうるのかを明らかにする目的で,ProPR1aの支配下にFdまたはPR1aの5´-UTRとFdのものを含む5種類のTPを持つEGFP発現するベクターの構築を試みた.また,Fdの5´-UTRがmRNAの細胞内局在に及ぼす影響をmRNAイメージング系の構築も試みた.前者については構築に時間がかかり,すべての組合せの構築を完了したが,輸送効率の比較検討を完了し,輸送効率の比較検討を継続中である.また,後者については構築を継続している.
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