休眠卵産下雌と非休眠卵産下雌のトランスクリプトームの比較から発現量の差が大きかった遺伝子のうち、MA-D18はRNAiによる該当遺伝子の発現抑制を行った。qPCRでハダニ体内の、MA-D18の転写産物量をモニターしてRNAiの効果をみたところ、施用後0日目から1日目にかけて、MA-D18に該当する遺伝子の発現量の低下が確認でき、3日目には発現量はほぼ抑制された。その効果は15日目まで続いた。 RNAiによってMA-D18の発現を抑制したハダニにおいて、それが休眠遺伝子であるかどうかは、産下された卵の眠性で判定した。その結果、得られた卵は25°で10日間で孵化する個体は出ず、全てが休眠卵であると判断された。ゆえにMA-D18の発現量を抑制しても産下される卵の休眠は打破されず、ここで供試した生育ステージのハダニでは、MA-D18は休眠には関与していない遺伝子であると結論づけた。 MA-D18のRNAiから、大容量塩基配列解析(RNA-Seq)で発現量の変化が大きかった遺伝子が必ずしも休眠には関与する遺伝子を含んでいるといえなかったため、既に選抜されている他の遺伝子については、先に休眠決定の上流および下流に関与するパスウェイ解析を進めて重要なモチーフ配列の抽出を進めた結果、トランスクリプトームの比較で最も発現量の差が大きかったMA-D2からは、スフィンゴ脂質の分解に関与するSaposin (B) Domain が活性部位が見出された。次にに発現量の差が大きいとされたMA-D3からは相同性のあるモチーフ配列は見つからず、機能性RNA配列が含まれることが分かった。休眠卵産下雌と非休眠卵産下雌において発現量が異なる他の遺伝子のパスウェイ解析からは、脂肪酸の代謝に関与するacyl-CoA、peptidyl-prolyl cis-trans isomerase、fatty acyl-CoA reductase、cytochrome P450 monooxygenaseなどのモチーフが見出されており、これらの遺伝子が複合的に休眠に関与する可能性がある。
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