植物は環境ストレスに対して様々な適応戦略をとるが,その中で分子‐分子相互作用は重要な役割を担っている. アルミニウム,塩集積などの土壌ストレスに対する適応では,単独で作用する分子は見出されているが,相互作用する分子の多くは未解明である. これは,致死的形質の特定が困難であることや,逆遺伝学解析時の形質相補など分子遺伝学の限界による部分が大きい. この研究では,これらの技術的問題を回避するために,「ゲノム遺伝学」の手法であるゲノムワイド関連解析を一歩進めて,重要な相互作用遺伝子対を特定することを目的とする.このような計画から実施した本研究では、アルミニウム耐性、塩耐性、活性酸素耐性等の表現型に関して、その耐性を制御する遺伝子座を特定するとともに、遺伝子座間の交互作用を検出することに成功した。特定した遺伝子座の中には、ストレスの受容に関わるレセプタータンパク質や、代謝に関わる酸化還元酵素等、通常の生理学的な解析からは特定できな遺伝子群も含まれていた。また、重金属耐性(カドミウム耐性)に関しては、同じ代謝経路に複数の制御SNIP(遺伝子多型)が検出されるなど、いわゆる交互作用遺伝子の典型的な例も検出することができた。研究期間中に、シロイヌナズナのゲノム全体の配列(全ての遺伝子の配列)情報が公表されたことなどもあり、複雑な遺伝現象の理解が深まる状況になったと考えられる。実際に、統計的に計算された表現型に影響を及ぼすと考えられる遺伝子には、タンパクレベルもしくはプロモーター部分(遺伝子発現に影響)に差異が認められる傾向も確認できた。
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