一酸化窒素(NO)は、高温時の種子発芽阻害を軽減する、すなわち高温発芽誘導活性を示すことが知られていたが、そのシグナル伝達機構は不明であった。本研究ではまず、レタス種子の33℃高温時発芽阻害がニトロプルシドナトリウム(SNP)等の数種のNO発生剤処理により軽減されることを確認した。NOによる発芽誘導は、活性酸素種(ROS)を消去するアスコルビン酸、tiron、カタラーゼにより阻害されること、peroxynitriteの放出剤SIN-1が高温時発芽誘導活性を示すことを明らかとし、NOとROSが反応し生成する活性窒素種が高温時発芽誘導の二次シグナルであることを突き止めた。 一方、グアニリルサイクラーゼの阻害剤ODQも、高温時のNOによる発芽誘導を阻害すること、この阻害がcGMPの添加により軽減されることを確認し、cGMPはNOによる高温時発芽誘導の発現に不可欠であることを立証した。表皮細胞ではcGMPがNOとROSによって8-ニトロ-cGMP(8-NO2-cGMP)に変換されることが報告されていたので、LC-MS/MSを用いて分析を行い、無処理の種子では検出されない8-NO2-cGMPが、SNP処理下33℃で2時間培養したレタス種子内に含有することを確認した。 また、種子内のABA分析を実施し、33℃で12時間培養後の種子のABA含量は、SNP処理した場合では無処理の50%以下まで低下していることを明らにした。さらに、33℃高温時発芽阻害と23℃において外性ABAの存在下で生じる種子発芽阻害へのNOの軽減作用は、ABA代謝阻害剤パクロブトラゾールによって打ち消されることを明らかとした。 以上本研究により、NOによる高温時レタス種子発芽誘導において、NOが種子内に8-NO2-cGMPの生成を誘導し、この化合物がABAの代謝を促進し発芽を誘発する機構が示唆された。
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