研究課題
組換えタンパク質の発現時に複数のジスルフィド架橋を正しく導入することは, 抗体医薬品など多数のジスルフィド架橋を持つタンパク質の製造には大きな課題である。本研究では,タンパク質のリフォールディングを高温条件下で効率的に進める方法をin vitro, in vivoの系で確立して複数のジスルフィド架橋タンパク質を生産する微生物生産技術を開発する。すでに高温条件下でのジスルフィド導入の触媒として,高度好熱菌T.thermophilus HB8がペリプラズム空間に発現する耐熱性ジスルフィド異性化酵素TthA0610,TthA1422を同定しており, 本研究では,その酵素化学的諸性質の解明と応用開発に取り組む。ジスルフィド異性化酵素の評価法には,変性RNaseを基質として,酵素活性を回復させたRNA分解酵素の酵素活性を指標とするin vitroアッセイ法が用いられてきた。しかし,間接的な評価法であるために微量検定が難しいことや,耐熱性酵素ではないRNaseを用いるために評価系の温度上限が低いという制限があった。本研究は,高温条件下でのタンパク質リフォールディングを目指しているので,熱安定性が高く自己フォールディング能が高い耐熱性superfolder GFP (sfGFP)を基質として,これに複数のジスルフィド架橋を導入した新規なPDI測定用基質を検討する。具体的には正しい立体構造の回復に依存して緑色蛍光を発する変異sfGFPを2種類作成した。sfGFP-1SSは分子内に一本のジスルフィド架橋(P56C-L141C)を持ち,sfGFP-2SSは(P56C-L141C, S202C-T225C)の2本のジスルフィド架橋を持つ。これをマイルドな酸化的ミスフォールド状態に導くとこで,高温条件下でのタンパク質のリフォールディング反応を可能にする。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に沿って下記の項目を達成している。緑色蛍光タンパク質sfGFPにジスルフィド架橋を1本導入したsfGFP-1SS,2本導入したsfGFP-2SSを組換えタンパク質として大腸菌で発現させてNi-NTAスピンカラムによる簡便な精製法を確立して変性タンパク質として安定な基質として調製した。この変性sfGFPを基質に用いてTthA0610,TthA1422のジスルフィド異性化作用により正しく自己フォールディングさせる蛍光アッセイ法の最適化を検討した。市販の牛肝臓由来タンパク質ジスルフィド異性化酵素(PDI)を標品酵素とした。TthA0610によるGFP-2SSの蛍光回復程度は実験の度に大きく異なっており,これはPDIを触媒に用いたときも同様だったので,再現性の低さは触媒ではなく基質の状態,つまり変性sfGFPの酸化状態に依存することが示唆された。とくに,酸化剤とその処理条件がsfGFP-2SSの蛍光消失の程度と回復収率に強く影響することから,H2O2の濃度や処理時間を最適化した。またミスフォールドしたGFP-2SSを,ニッケルカラム担体を用いて簡便に精製してアッセイに供する方法も確立した。反応系の酸化還元電位を調節するレドックス緩衝成分としてGSH/GSSGのグルタチオン系を用いて,温度条件や反応時間を検討した結果,PDI触媒とGSH/GSSG緩衝剤に依存して再現性よく蛍光が回復したので簡便・高感度にPDI機能を評価できる反応系を確立した。組換えTthA0610を大腸菌細胞内に発現させたとき,触媒して働く温度の上限は40℃であった。しかしペリプラズム空間に移行するSecシグナル配列を付加して発現させると,稼働温度は50℃が上限であった。本酵素がペリプラズムへの移行過程において立体構造の安定性が向上することが示唆された。
(1) Thermus thermophilus HB8を宿主とするGFP-2SSの発現系構築sfGFP-2SSをThermus菌で発現させるために遺伝子挿入ベクターを構築する。遺伝子のノックインは相同組換えによって導入するので,sfGFP-2SSの前後を標的サイトの相同配列断片で挟んで自己複製しないプラスミドにクローニングしてすでに確立された形質転換によって取り込ませる。ベクター上の薬剤耐性遺伝子による選抜を経て,蛍光を発するサーマス菌として候補株を取得する。(2) 高温条件下でのタンパク質リフォールディング技術(PTR)の開発H28年度までに検討してきた高温条件下のタンパク質リフォールディングの条件検討をさらに効率的に実施するためにサーマルサイクラーを用いた蛍光回復の経時変化を追跡する。高温,低温のサイクルプログラムや時間,サイクル数など蛍光収率でモニターしながら条件検討を行う。酸化還元電位の緩衝剤として添加するグルタチオンの酸化還元比(GSH/GSSG)なども重要な検討項目とする。
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