研究課題/領域番号 |
15K14697
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
床波 志保 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60535491)
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研究分担者 |
飯田 琢也 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10405350)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光トラップ / 細菌 / 固定化 / 機能性高分子 / 環境 |
研究実績の概要 |
ポリマー分子膜への細菌の取込み効果を光制御する「光誘導型細菌トラップ法」の原理を開拓し、有用細菌の生存状態での固定化法や、悪性細菌の除菌システムを開発して食品衛生にも貢献することが目的である。 初年度は細菌固定化法の開発準備として、光吸収性の薄膜にレーザー光照射して発生した対流と光誘起バブルにより基板上の狙った場所に細菌を高密度集積して固定化するための原理開拓を行った。特に、蛍光染色された細菌をレーザー照射点近傍に光誘導するプロセス(光アセンブリング)を観察するシステムを整備し、まずは平坦な金薄膜を表面に形成した基板上で生存率を確認できる可能性を示した。 また、光アセンブリングによる細菌集積化の最適条件探索のため、基板上の光吸収性の薄膜の成膜条件や経時変化についても調べた。結果として、膜厚や成膜後の日数によって光誘起バブルのサイズのバラつきが抑えられる条件を示した。この条件下で細菌と同体積のマイクロビーズを用いた予備実験で見積った集合率から基板上の液滴中に含まれる全細菌数を、わずか数分で見積ることができる迅速細菌計測法に応用できる可能性を明らかにした。従来、細菌数計測に用いられる培養法は数日の時間を要するのに対し、開発した「光誘導細菌計数法」の原理はケタ違いに迅速かつ正確に細菌数を算出できるため食品・環境計測での利用可能性が大いに期待できる。一方で、マイクロ構造をデザインして基板上に形成することで集合効率を制御できる条件も明らかになりつつある。さらに、これまでに実績のある誘電泳動法による細菌鋳型膜への選択的細菌トラップに関する理論解析にも取組み、実験と整合する結果を得た。そこでは光誘起力と誘電泳動力が同一の方程式で記述できることを明らかにしており、光誘導型細菌トラップ法の最適条件探索に利用する準備も整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「項目①光誘導型電解重合による細菌固定法の開発準備」に関しては、【研究実績の概要】で述べたように平坦な金ナノ薄膜を表面に付した導電性基板上においてレーザー照射により狙った場所へ細菌を集積化でき、生存率評価を行うための準備も整った。また、「項目②光アセンブリングによる細菌集積化の最適条件探索」では、細菌の光誘導のための基板設計の指針が得られ始め、ハイスループットな細菌固定化法を提供できる可能性も得られ特許出願の準備を進めている。平坦な薄膜の場合に迅速かつ高精度な細菌計数法に利用できるという予想以上の成果も得られ、米国光学会の論文誌に掲載された。さらに、「項目③光集積現象のシミュレーションによる最適化」に関しても低周波交流電場での実験との対応付けができているため、レーザー光を細菌誘導用の外場として用いた場合の理論解析の準備も整っている。これらの状況を勘案して、当初計画以上に進展していると言っても過言では無い。 ※本課題と関連し、理論解析の基礎部分に関する以下の受賞があった。 [1] IAC Presentation Award in The 10th Asia-Pacific Conference on Near-field Optics (APNFO10)受賞論文:"Three-dimensional Nano Optical-assembly for the Control of Collective Near-field Coupling"著者:Mamoru Tamura, Takuya Iida [受賞者:Mamoru Tamura]
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今後の研究の推進方策 |
項目①と関連して、1年目に実施した項目における技術・知見をベースに光誘導型細菌トラップの原理を確立し、細菌を高密度固定した基板の作製を行い、電子顕微鏡等で膜の表面観察を行うことで細菌の固定方向を調べる。また、電解重合と組合わせた細菌固定化法についても検討する。さらに固定した細菌の生存率評価の方法を確立する。項目②では開発した光誘導型細菌トラップ法の適用例となる有用細菌を選定し、それらを用いた細菌固定化膜の作製と性能評価へのステップを着実に積み重ねる。項目③においては、細菌を効率的に吸着するために電極として導電性のマイクロ細孔の構築を行い、レーザー照射下での集合化および固定化の可能性の探索を行う。また、細菌の分離のための条件探索も同時に行い、悪性細菌を対象とした場合の細菌の死亡率評価にも着手して光学的除菌法への応用可能性も探る。これらの取組により、食品・環境計測へ適用可能性についても調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細菌を生きたままレーザー光で誘導して捕捉できる可能性を前年度末に予備実験で示したが、有用細菌の培養や基板上のマイクロ構造の作製・安定供給には当初想定以上に費用がかかることが分かった。このため、平成28年度に有用細菌を用いたメインの実験を成功に導くため、次年度への繰越が必要であった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように有用細菌の培養や基板の作製に必要な試薬等の消耗品購入のために物品費:300,000円が必要であるため、次年度への繰越を行い、有効に予算を活用する。
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備考 |
その他、多数のメディアで紹介される。月刊スマートハウス、日経産業新聞(8面)、月刊「Solvisto」, 2015年5月号, p.30-31、月刊「コンバーテック」2016年2月号, p.44-45。 床波研究室:URL http://www.chem.osakafu-u.ac.jp/ohka/tokonami_lab/
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