前年度では、アミノ酸ラセマーゼとD-アミノ酸アセチルトランスフェラーゼが共役することによるL-アミノ酸からN-アセチル-D-アミノ酸の生成をin vivo系で確認するため、酵母内でのアミノ酸ラセマーゼ遺伝子の発現系の構築を行うこととし、酵母発現用プラスミドpMAR426を作製した。D-アミノ酸アセチルトランスフェラーゼについては、酵母の野生型酵素の活性を利用した。作製したpMAR426で酵母S. cerevisiae BY4742株を形質転換後、このアミノ酸ラセマーゼ発現酵母BY4742株を用い、N-アセチル-D-メチオニン発酵生産の検討を行った。100mM L-メチオニンを含む培地で振とう培養を行った結果、48時間後に最大0.025 mMのN-アセチル-D-メチオニンを培地中に発酵生産した。しかしながら、N-アセチル-D-メチオニン生成量が不十分であり、この原因としてアミノ酸ラセマーゼ活性が低いことならびに野生型酵母でのD-アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ活性が低いことによるものと考えられたため、本年度は、アミノ酸ラセマーゼ生産系の改良ならびに酵母での組換え型D-アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ生産系の構築を行った。その結果、アミノ酸ラセマーゼ活性は改良したpGAR426プラスミドを用いることで活性を約490倍(4.13 U/mg)に、D-アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ活性は構築したpGDT425プラスミドを用いることで野生型酵母の約20倍(0.117 U/mg)に向上させることに成功した。これらの両プラスミドで形質転換されたBY4742株を用いてN-アセチル-D-メチオニン発酵生産を検討した結果、培地中に10mM L-メチオニンを添加した場合に、0.65mMのN-アセチル-D-メチオニンの生産が確認された。
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