研究課題/領域番号 |
15K14700
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
仲宗根 薫 近畿大学, 工学部, 教授 (80340834)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 黒麹菌 / Aspergillus luchuensis / フェノール酸脱炭酸酵素 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究計画は、まず第1に、黒麹菌(A. luchuensis)NBRC4314株のPhenolic Acid Decarboxylase(PAD)遺伝子の存在を明らかにし、そのコード領域及び上流域の構造解析を行うことであった。第2に、実際に酒造所で使用されている黒麹菌を泡盛もろみより分離、さらにPADの酵素活性の有無を確認することであった。 既に解析済みのNBRC4314株ゲノム(データベース)情報からPAD遺伝子を見いだしコード領域の解析を行った。本酵素遺伝子は519bp、172アミノ酸、分子量19989.17、等電点(pI)5.01の特徴を有し、イントロンを含まない(エキソン部分のみ)ことが明らかとなった。本酵素のアミノ酸配列のBLAST解析では、白麹菌PADと完全に一致する結果を示した。またプロモーター(上流域)部分には基本転写因子結合部位が見いだされた。 共同研究先の泡盛酒造所より泡盛もろみをサンプリングし、泡盛製造に用いられている黒麹菌の分離を試みた。実際の分離では黒麹菌以外に、泡盛酵母、その他の微生物(乳酸菌)の分離も同時に試み、目的微生物の分離が終了した。これら全ての微生物の同定を目的とし、現在rDNA遺伝子及びITS領域の塩基配列を指標として、分離された微生物の同定を試みている。 また培養後のNBRC4314株細胞破砕画分に弱いPAD酵素活性(クマル酸からビニルフェノール酸への変換を指標)が検出された。これは酵素濃度の低さによるものと判断されたので、現在、本酵素遺伝子情報から発現ベクターを構築し、組換え体PAD酵素の精製を試みている。 黒麹菌においてPAD遺伝子は「構成的に(常に)」発現しているのか?また誘導されているのか?の報告はない。従ってここではさらに、様々な組成の液体培地による黒麹菌の培養を試み、この疑問点を解決する実験準備を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記載したように、平成27年度の研究計画は、まず第1に、黒麹菌(A. luchuensis)NBRC4314株のPhenolic Acid Decarboxylase(PAD)遺伝子の存在を明らかにし、そのコード領域及び上流域の構造解析を行うことであった。第2に、実際に酒造所で使用されている黒麹菌を泡盛もろみより分離、さらにPADの酵素活性の有無を確認することであった。これら研究計画の全てが実施され、当初の目的を達成した。 共同研究先の泡盛酒造所由来のもろみから分離された微生物の多様性の結果は、今回の研究計画には記載しなかった新たな知見を示唆するに至った。黒麹菌及び泡盛酵母の2種の微生物に加え、複数種の微生物(外からの混入)がもろみ中から見いだされた。黒麹菌はクエン酸を生産しもろみ中への雑菌混入を防いでいるが、乳酸菌はこのクエン酸存在下でも生き延びる微生物の一つである。このことは、現実の泡盛もろみの発酵は黒麹菌と酵母のみではなく、第3の微生物が関与する複合的な発酵系といえるだろう。 この乳酸菌にもPAD活性が見いだされ、泡盛もろみ中でのF→4-VG変換への寄与は、黒麹菌及び乳酸菌の両者が関与している可能性も同時に示唆した。今後はこの仮説の検証のため、泡盛もろみを、乳酸菌添加と未添加で作成しFA、4-VG、V濃度の測定が必要になると思われる。 この結果は、外から混入した乳酸菌~第3の微生物が関与する複合的な発酵系~の泡盛芳香生成への寄与を示唆する。今後、泡盛製造においてこの乳酸菌群の積極的投入により、泡盛を特徴付ける芳香(バニリン←4-VG)豊かな泡盛製造方法の提案に向けて、複合系中の微生物相互作用やPADの発現誘導メカニズムなど、詳細な解析が望まれるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究計画に基づき、黒麹菌(A. luchuensis)NBRC4314株のPhenolic Acid Decarboxylase(PAD)遺伝子の存在を明らかにし、そのコード領域及び上流域の構造解析を行うことであった。第2に、実際に酒造所で使用されている黒麹菌を泡盛もろみより分離、さらにPADの酵素活性の有無を確認した。 今後は、新たに分離された黒麹菌の全ゲノム解析を行い、実験室株であるNBRC4314株との比較ゲノムによりその共通点と相違点を、ゲノム・遺伝子構造の観点から、また機能や発現の観点から解析を行う。 上述のように、黒麹菌においてPAD遺伝子は「構成的に(常に)」発現しているのか?また誘導されているのか?の報告はない。従ってここではさらに、様々な組成の液体培地による黒麹菌の培養を試み、この酵素遺伝子の発現が構成的なのか?誘導的なのか?の疑問点を解決する実験準備を開始した。 誘導物質として、フェルラ酸、キシラン、アラビノキシラン、米ぬかなどを候補とし、培養実験を行い予備的な結果ではあるが、フェルラ酸(単独)では誘導はかからず、米ぬか・キシラン・アラビノキシラン等で誘導がかかる傾向が見いだされている。フェルラ酸は、キシランやアラビノキシランを介してリグニンに結合することで細胞壁の一部をなす。乳酸菌PADは、フェルラ酸で誘導がかかる傾向(未発表)があり、真核生物と原核生物でのこれら誘導の違いは、遺伝子発現機構の観点から非常に興味深いものがある。このメカニズムの解明と理解は、泡盛醸造においてPAD遺伝子の制御によって、もろみ中のPAD酵素活性を最大限に引き出す、研究上の意義を持つ。さらにこれら結果に基づき、黒麹菌の育種研究の推進も図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費の戻し入れのため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(試薬代)の一部として使用する。
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