研究課題/領域番号 |
15K14701
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研究機関 | 秋田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
上松 仁 秋田工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (20435407)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ルーメン微生物 / バイオミメティクス / 微生物群集構造 / バイオマス / セルロース / 揮発性脂肪酸 |
研究実績の概要 |
牛の第一胃(ルーメン)から採取したルーメン微生物を長期間恒常的に連続培養することにより稲わらなどのセルロース系バイオマスから酢酸などの工業的に有用な揮発性脂肪酸(VFA)を効率的に生産するルーメンミメティック有機酸生産システムを構築することを目的として研究を行った。牛(日本短角種)からルーメン液を1L採取し、人工唾液1Lを加えて全量2Lで窒素ガスの間欠通気による嫌気培養を39℃で行った。VFAの生成は培養液のpHの低下で検出しHPLCおよびLC-QTOFMSで定量した。栄養源として稲わら等の粉砕物を1日20g添加して培養を開始した。VFA生成活性はpH低下速度(pH/h)で評価した。VFA生成活性を維持する為に窒素源の検討を行った結果、硫酸アンモニウムを0.1%添加した人工唾液による6.50のpH制御により窒素源の供給が可能であることが分かった。プロトゾアは培養2~3日で消失したが一カ月以上に及ぶ連続培養でもVFA生成活性を維持することができた。 ルーメン微生物の群集構造解析は16S rDNAを標的としたPCR-DGGE法で経時的に行った。採取培養液の静置上清からDNAを抽出し、GC-357Fと518Rをプライマーとした。PCR産物を変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DEEG法)により分離してバンドのパターンを比較した。稲わらなどのセルロース系バイオマスで培養を継続すると特徴的なバンドの出現が見られ、特にセルロースパウダーのみで培養すると特定のバンドが増強した。これらのことからルーメン微生物の群集構造は菌が消失するのではなく菌数の増減により添加されたバイオマスの消化に最適な群集構造に移行していくことが示唆された。今後は特徴的なバンドを切り出してDNA配列解析を行い菌の同定を行うと共にそれらの菌のVFA生成における役割を考察して更に有機酸生産の最適化を図っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画では、1)ルーメン微生物の有機酸生成活性を指標とした連続培養条件の検討、としている。これまでに1カ月以上に及ぶルーメン微生物の連続培養が可能な培養装置および培養条件を確立した。窒素源の供給および6.50のpH制御は0.1%硫酸アンモニウムを加えた人工唾液のフィードで行い、VFA生成に関わるルーメン微生物の連続培養を可能にした。2)LC-QTOFMSによる発酵代謝物の網羅的な分析、ではどのような培養液からもVFAの定量を可能にし、酢酸とプロピオン酸については通常の210nmの吸光度によるHPLC分析による定量も可能にした。3)PCR-DGGE法による人工ルーメン内の微生物群集構造の解析、では16S rDNAを標的としたルーメン菌の群集構造のプロファイリングを可能にした。当初、真核生物(プロトゾア)の解析も計画したが、プロトゾアは培養初期に消失したこととプロトゾアはVFAを生産しないことから行わなかった。ルーメン微生物の群集構造解析の結果、微生物種の同定はまだであるがVFAの生成に寄与すると考えられる複数のDGGEバンドを確認している。以上の成果から概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究計画として、セルロース系バイオマスからの酢酸等の揮発性脂肪酸(VFA)の生成量を上げる為にルーメン微生物群集構造の誘導と再構成を行う。また、様々なバイオマスの消化に対応しうるルーメン微生物群集構造の恒常性を検証する。 稲わら等のセルロース系バイオマスを添加した際の特徴的なDGGEバンドからDNAを抽出して微生物を同定し、VFAの生成における役割を考察する。VFAの生成に重要な役割を果たしている菌については誘導と再構成を行い、VFA生成のボトルネックを解消することによりVFA生成速度を上げてVFAの蓄積量を理論収率に近づける。 さらに、10リッターレベルの連続嫌気培養装置を作り、設定したルーメン微生物群集構造と培養条件で連続培養を行い、様々なバイオマス添加に対する各VFAの生成速度と生成比率、微生物群集構造の恒常性について検証する。得られたデータからルーメンミメティク有機酸生産システムの実用化へ向けた収率計算、コスト計算を行う。
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