固体金属から電子を獲得し、二酸化炭素を固定しながら生育する金属腐食微生物の能力を活用することで、他の独立栄養生物とは異なる革新的二酸化炭素システムを構築できる可能性がある。最終年度までに、環境中より酢酸生産能を有する新規腐食微生物を単離するとともに、国内外の菌株保存機関に登録されている酢酸菌から腐食能を示す株の特定に成功した。これら腐食微生物を用いた効率的な酢酸生産のためには、電子獲得=腐食能力の増強が必要である。しかし、これまでに酢酸菌の金属腐食メカニズムに関する情報はない。そこで、腐食能を有する酢酸菌のうちゲノムが公開されており、高い活性を示すClostridium carboxidivoransに対象を絞り、鉄腐食に関する遺伝子を明らかにするために、H2/COを電子源として培養を行った場合と、鉄を電子源として培養を行った場合で網羅的な転写比較解析を行った。その結果、全遺伝子5167個の中で、鉄を電子源とした場合に10以上転写量が特異的に上昇した遺伝子が44個見出された。これらの遺伝子はC. carboxidivoransの腐食反応において重要な役割を果たす遺伝子群と推定された。これらの遺伝子群には固相表面でのバイオフィルム形成に関与する多糖合成酵素をコードする遺伝子や細胞表面に局在する膜タンパク質をコードする遺伝子が含まれており、特に膜タンパク質については固体鉄からの電子獲得に寄与している可能性が推定された。これらの情報を活用することで、今後、鉄を電子源とした二酸化炭素変換システムの高効率化が可能と考えられる。
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