ポリアミンは、アミノ基を2つ以上含む脂肪族化合物の総称である。植物のポリアミンは、ジアミンのプトレシン、トリアミンのスペルミジン、テトラアミンのスペルミンとサーモスペルミンが主要な成分であることが知られている。これらの生合成経路は、2007年までに解明された。 一方で、ポリアミンの分解を担う経路については理解が遅れていた。最近の申請者を含む複数の国際研究グループの解析により、シロイヌナズナでは5つあるポリアミン酸化酵素遺伝子(以下、AtPAO1~AtPAO5と呼称する)にコードされる酵素の基質特異性、細胞内局在性、時・空間的発現に関する知見が蓄積してきた。イネ植物においても7つあるポリアミン酵素遺伝子のうち6つについて申請者グループが解析し、結果を公表している。ポリアミン酸化酵素遺伝子の発現は、種々の環境ストレスにより変動することから、シロイヌナズナを用いて解析を進めた。AtPAO2、AtPAO3そしてAtPAO4の酵素はポーオキシゾームに局在するが、AtPAO1とAtPAO5の酵素は細胞質に局在している。これら5つの遺伝子それぞれの単一遺伝子の機能欠失変異体では、塩ストレス処理によって野生株との間に根の伸長に差異が見られなかった。そこで、酵素の細胞内局在性に着目し、2つの二重機能欠失変異体-Atpao1Atpao5とAtpao2Atpao4ーを作出した。後者は野生株との間に塩ストレス感受性に差異がなかったが、前者は塩ストレス耐性さらには乾燥ストレス耐性となることを見出した。前者植物では、塩処理によっても活性酸素分子種の産生が抑制されていること、と同時に環境ストレス時に誘導される遺伝子群の発現が早期に強く誘導されること、を見出した。上記の結果は、細胞質局在型のポリアミン分解酵素遺伝子の発現抑制が、新たな環境ストレス耐性植物を作出する手法である可能性を提示している。
|