研究課題
生体内の細胞は、環境変化を要因とするストレスの種類、持続時間や強弱に対して、細胞死を誘導するシグナル伝達機構や、生存のために損傷を修復するストレス適応機構のいずれかを選択し、生体の恒常性を維持している。近年、細胞のストレス適応機構の一つとして、ストレス顆粒の形成による翻訳制御が報告された。この顆粒は、ストレス刺激に応答して一過性に形成される細胞質内構造体であり、RNA結合タンパク質や mRNAを顆粒内に取り込んで翻訳を一時的に停止させ、mRNAの安定性や翻訳を調節している。しかし、顆粒の形成は可逆的であり、形質膜を持たないまま細胞質に存在するため、単離や精製による生化学的解析が極めて困難である。そのため、ストレス顆粒がどのように形成されるのか、また、構成因子はどのように選択されるのかといった高度な情報については未だ不明であった。ナノピペット技術は、細胞損傷を引き起こさず、単一細胞へ少量の溶液を正確に注入することができるため、細胞研究の有効なツールとして取り上げられている。本研究ではナノピペットを用いて、ストレス顆粒に局在する蛍光融合タンパク質をプローブとして生細胞からストレス顆粒の単離を試みた。まず、ヒト子宮頸癌由来細胞株HeLa細胞にマーカータンパク質を導入し、酸化ストレス刺激に応答するストレス顆粒の位置を特定した。その後、先端口径50 nmのガラスキャピラリーを装着したナノピペットを用いて、細胞内の蛍光を示す顆粒の単離を行った結果、ガラスキャピラリー内で蛍光シグナルが認められた。本研究の結果から、困難だった生細胞からストレス顆粒の単離方法としてナノピペット技術が有用である可能性が示唆された。今後、確立したナノピペットの実験系を用いることで、細胞内顆粒の単離だけでなく、構成物質の解明につながり、細胞内のmRNA品質管理機構に関する研究の飛躍的な発展が期待できる。
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The Journal of Biochemistry
巻: 161 ページ: 255-258
10.1093/jb/mvw095