本研究では、ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞の分化制御を直接担う転写因子複合体に焦点を当て、1.細胞分化を引き起こす転写調節が、どのような分子間相互作用を通じて引き起こされるのか、2.そのような分子間相互作用を阻害する化合物を開発することにより細胞の分化を人為的に制御できないか、という点を明らかにすることを目標としている。Smad3-FoxH1複合体は、発生の初期段階において、原条の形成に関与することが知られている。平成28年度年度は、平成27年度に得られたSmad3-FoxH1複合体の構造から推測される分子間相互作用を、点変異体解析によって確認した。その結果、Smad3とFoxH1間の相互作用には、FoxH1の両親媒性へリックスとSmad3のthree helix bundle region間の相互作用と、FoxH1のプロリンリッチな配列とSmad3のβ sandwich region間の相互作用が重要であることが示された。Smad3-FoxH1の相互作用に強く関与すると示されたSmad3の分子表面上に結合する低分子化合物を、ドッキングシミュレーションソフトを用いて探索し、Smad3-FoxH1間の相互作用を阻害する候補化合部とした。それらの候補化合物の作用を、熱変性実験やプルダウンアッセイによって評価したが、Smad3-FoxH1間の相互作用を優位に低下させる化合物を新規に発見することはできなかった。しかしながら、Smad3-FoxH1間の相互作用に関与するSmad3分子表面の情報は、TGF-βシグナルに起因する生命現象を制御する薬剤の開発において、非常に重要な知見になるであろうと考えられる。
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