研究課題/領域番号 |
15K14709
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
片岡 邦重 金沢大学, 物質化学系, 教授 (40252712)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ブロモペルオキシダーゼ / 臭素付加反応 / 貝紫色素 |
研究実績の概要 |
含ハロゲンヘテロ環有機化合物は抗菌・抗がん活性を示すことから,海洋性天然物由来の含ハロゲン有機化合物が注目されている。動物性色素の貝紫は二臭化インディゴの分子構造をもち,前駆体である臭化インドール誘導体2分子が縮合して生成するが,この色素前駆体の位置特異的臭素化反応のメカニズムは未だ明らかではなく,この反応を触媒する酵素ブロモペルオキシダーゼは巻貝に微量しか含有しないため単離されてもいない。そこで本研究では,能登産のアカニシガイRapana venosaを研究材料に本酵素の精製を試みた。2年目に当たる今年度は,初年度に引き続きトリプトファン誘導体を基質とするブロモペルオキシダーゼ活性測定系の検討と,アカニシガイにおける同酵素活性の検索を行った。アカニシガイの鰓下腺及び周辺組織を組織毎に摩砕し,その抽出液を調整した。モノクロロジメドンを基質とした場合は,どの組織の抽出液にも臭素化活性がほとんど検出されないことが明らかになった。そこで,トリプトファン及びその誘導体を基質として用いる活性測定系を開発し,抽出液の活性を測定したが,顕著な臭素化活性は検出できなかった。トリプトファンを基質に市販の海藻由来のブロモペルオキシダーゼを用いて活性測定を行ったところ,インドール環上の置換基の位置によって臭素化反応速度が異なることが明らかになった。したがって,海藻由来のブロモペルオキシダーゼの臭素化反応は,インドール環の置換基を識別していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アカニシガイ約10 kgから鰓下腺及び周辺組織を取り出し,それぞれ組織別に氷温下で海砂・アルミナを用いて乳鉢で摩砕した。遠心分離後,上清を回収し,これを粗酵素液とした。モノクロロジメドン,トリプトファン及びその誘導体を基質に粗酵素液の臭素化活性を測定したが,顕著な活性は検出されなかった。そこで,1) 粗酵素液に含まれると考えられる反応阻害物質の除去,2) アフィニティークロマトグラフィー用樹脂の開発とその樹脂を用いる酵素精製の2つの方針で,活性検出方法の改善を図ることとした。反応阻害物の除去では,透析や脱塩などの方法で粗酵素液から貝紫色素の除去,色素形成を抑制するため暗所で粗酵素液を調製するなどの方法を用いると,活性回収率に改善が見られた。今後も反応阻害物質の除去を中心に酵素の調製を進めたい。アフィニティー樹脂の開発では,アフィニティーリガンドに基質アナログであるトリプトファン誘導体を用い,NHS-activated Sepharose 4B樹脂(GEヘルスケア製)と反応させることでリガンドを固定化したオリジナル樹脂を作製した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から,鰓下腺から得られる目的のブロモペルオキシダーゼは非常に微量だと考えられる。これを効率的に精製するために,アフィニティークロマトグラフィー法の使用を試みる。アフィニティーリガンドにトリプトファン誘導体を用い,NHS-activated Sepharose 4B樹脂(GEヘルスケア製)と反応させることでリガンドを固定化したオリジナル樹脂を既に作製した。今後,自作アフィニティー樹脂によるクロマトグラフィーと,市販樹脂による各種クロマトグラフィー,または電気泳動法などを駆使して精製条件の検討を行う。また,アカニシガイのブロモペルオキシダーゼは活性が低いか,もしくは不安定で貝紫色素の生成による硫化物により失活すると考えられる。そこで,貝紫生成反応を抑制しながら失活の原因物質を除去することにより,粗酵素液の活性回収率を上げ,アフィニティー精製につなげたい。さらに,海藻の酵素を対象にブロモペルオキシダーゼによるトリプトファンの臭素化における,臭素化部位の検討を行う予定である。
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