タンパク質のミリストイル化は、タンパク質のアミノ末端に炭素数14の長鎖飽和脂肪酸であるミリスチン酸が付加している。細胞シグナル伝達や細胞内のタンパク質輸送などに重要であり、がんをはじめ神経変性疾患やウイルス感染症といった様々な疾患に関係していることが明らかとなっている。 これまでタンパク質の脂質修飾においてパルミトイル化だけが可逆的に制御された脂質修飾といわれる一方で、タンパク質のミリストイル化は不可逆的な修飾として考えられていた。しかし近年、病原菌である赤痢菌が分泌するIpaJ (invasion plasmid antigen J)というエフェクター分子が真核生物では起こらない脱ミリストイル化活性を有していることが明らかとなった。本研究室では、ラット脳画分に脱ミリストイル化活性が存在し、ATP依存的にミリストイル化タンパク質を脱ミリストイル化できることを予備的な実験結果として得ている。このことは、これまで同定されていない脱ミリストイル化酵素の存在を示唆しており、真核生物における脱ミリストイル化酵素を単離して同定することは意義がある。 本研究では、真核生物ではまだ見つかっていないミリストイル基を除去する脱ミリストイル化酵素を同定することを目的とする。 最終年度では、前年度までに開発した脱ミリストイル化活性を検出するためのアッセイ系を用いて、ラット脳画分より脱ミリストイル化活性の検出することに成功した。ラット脳の可溶性画分を24時間アッセイ系でインキュベートすることによりミリストイル化タンパク質が脱ミリストイル化タンパク質に変換されたことから脱ミリストイル化酵素の存在が確認できた。今後、この脱ミリストイル化酵素の精製・同定を進め、同定した脱ミリストイル化酵素のクローニングと大腸菌および動物細胞に発現させ、その生理機能の解明を進めていく。
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