研究実績の概要 |
ブロッコリー等のアブラナ科植物の摂取量が少ない集団で、各種の発がん率が高いというヒト疫学データが多数報告されている。このことから、アブラナ科植物の苦味感受性の個人差、すなわち苦味受容体(TAS2Rs)の個人差が摂取食物の選択に影響していることが推察された。さらに、アブラナ科植物成分を代謝(解毒)する肝臓内酵素であるGSTs(グルタチオン S-トランスフェラーゼ)も、酵素活性に個人差があり、遺伝子多型が認められる酵素である。よって、この研究ではその二つのタンパク質群の発現の個人差を明らかにすることによって、食品の好き嫌いの個人差と代謝の個人差を明らかにして発癌の個人差との関係を明らかにしていこうとした。 先ず、味覚受容体は25種類もある中で最もよく研究されているTAS2R38を中心に検討した結果、PTC (phenylthiocarbamide)やPROP (6-n-propylthiouracil)のレセプター候補として知られるTAS2R38 は、3か所のSNP の組み合わせによって、non-taster (AVI/AVI) 、medium-taster (AVI/PAV) 、super-taster (PAV/PAV) に分けられる。AVI/AVI 群はPTC, PROP に対する苦味感受性が低く、AVI/PAV 群は中程度の、PAV/PAV 群は高い苦味感受性を有することが知られている。しかし、カゼイン酸水解物や他の苦味物質に関しては、AVI/AVI 群が最も苦味感受性が高い結果となった。また、グレープフルーツ中の苦味成分に関しても、リモニンが唯一TAS2R38 に受容されるという報告がある (Meyerhof et al., 2012) が、グレープフルーツに対する苦味感受性の個人差がTAS2R38 の遺伝子型の違いで説明できないことが初めて示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の研究実施計画にあった1)アブラナ科植物の調理法の違いによるisothiocyanate 類の濃度変化と苦味の変化、植物中のmyrosinase活性変化、および摂取後の尿中排泄変化の計測(ヒト被験者)は、他のTAS2Rs(1, 4, 7, 10, 14, 19, 46)の遺伝子多型解析に時間を費やした結果、次年度に回すこととなった。計画2)の健常人および癌患者のisothiocyanate類の苦味感受性の個人差の解析は、アンケート調査及びDNAサンプリングを終え、遺伝子多型解析を行った。とくに後者については現在まとめており、投稿して2回目の査読の段階にあるが、遺伝子データのため内容の公開を保留したい。計画3)のisothiocyanate類の苦味レセプターの同定と遺伝子多型の分類に関しては、TAS2R38の他にTAS2R1, 4, 7, 10, 14, 19, 46 等で解析を進めており、これは近々公開できるものと考えている。よって、今回の公表は研究計画成果の一部のみとなった。
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