研究課題
苦味受容体(TAS2Rs)は食物に含まれる有害な物質を検出しそれらの偶発的な摂取を防ぎ、健康を維持するうえで重要な機能を担っている。TAS2Rsは口腔内だけではなく、消化器系や甲状腺、呼吸器、など様々な組織で発現し、栄養素や刺激物などのシグナル受容を介した生理機能に関与することが示唆されている。TAS2R遺伝子の変異は食行動や栄養摂取量などの嗜好性の違いや、生活習慣病などの疾患に対する罹患率を変動させることが知られているが、発癌におけるTAS2Rの関与については十分に理解されていない。そこで本研究では、機能的な変異が知られているTAS2R38と46について癌患者群と対照群との間で遺伝子型頻度を比較し、各苦味受容体の癌リスクを推定した。【方法】消化器系癌(胆道癌、肝細胞癌、膵臓癌、大腸癌及び胃癌)と診断された癌患者群79人と対照群186人の口腔粘膜からDNAを抽出・精製し、変異部位を含む領域を増幅した後、シークエンスにより配列を決定して遺伝子型を解析した。【結果】TAS2R46は対照群の中で約6%のヌルアレルホモであり、癌患者群においてもこの頻度は同程度であった。従って、このヌル変異は癌の大きなリスクとはならないことが推定された。一方phenylthiocarbamide(PTC)のリガンドであるTAS2R38において、PTC非感受性型ホモは、対照群よりも癌患者において遺伝子頻度が有意に高かった。対照的にPTC感受性型ホモにおいては、対照群よりも癌患者において頻度が低く、PTC 感受性型は癌リスクを低下させる遺伝子型であることが示唆された。よって、TAS2R38は発癌物質の検出に関与している事が推察された。なお、解毒酵素GST(Glutathione-S-transferase)の解析はすでに行っており、間もなく公表する予定である。
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J. Nutritional Science and Vitaminology
巻: 63 ページ: 155-161