本研究課題では,食物繊維が消化管内局所的に分泌される生理活性物質に影響を及ぼし,絨毛を形成する上皮細胞の増殖に関与していることに焦点を当てた。アミノ基を導入した後にビオチン化させたペクチンをストレプトアビジンカラムに固定し,ペクチンカラムを作製した。マウス小腸から膜タンパク質と細胞質タンパク質を抽出し,それらをそれぞれペクチンカラムに供して吸着させた後,0.5 Mおよび1 M NaClでタンパク質を溶出した。得られたタンパク質は,SDS-PAGE,二次元電気泳動により分離した後,MALDI-TOF-MSによるタンパク質の同定を試みたものの,生体内でペクチンと相互作用する可能性が高いタンパク質を同定することは出来なかった。そこで,候補タンパク質とフィブロネクチン(FN)のアミノ酸配列についてホモロジー検索を行った結果,相同性の高い配列を発見した。この配列をFNペプチドとし,表面プラズモン共鳴法によりペクチンとの相互作用を解析した。FNを固定したセンサーチップを用いた結果,FNペプチドはFNに結合してペクチンとの結合を阻害することがわかった。また,ペクチンとFNの結合部位と,FNペプチドとFNの結合部位が競合していることから,それぞれの結合部位は一致している可能性が示唆された。そこで,分化Caco-2細胞にペクチンとFNペプチドを添加して細胞応答を調べたところ,ペクチンとFNペプチドのどちらでも,アポトーシス促進遺伝子であるp53と細胞周期を停止させるp21のmRAN発現量が抑制されていた。以上のことから,FNペプチドは細胞応答の際にもペクチンが結合するFNの同じ部位に結合しシグナルが伝達されていること,そしてペクチンによる小腸絨毛の伸長にはアポトーシスの抑制が関連していることが示唆された。
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