研究課題/領域番号 |
15K14732
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低温増殖性細菌 / 食品変敗 / 低温適応機構 |
研究実績の概要 |
(1) 食肉加工品より単離された変敗乳酸菌Leuconostoc mesenteroides NH04株と、同種の標準株2種のポリスチレン表面、細胞接着分子であるムチンおよびフィブロネクチンへの接着性を調べた。また、細胞接着と関わる細胞表層の電気的性質について調べた。25℃、10℃いずれにおいても、NH04株では標準株2株に比べてポリスチレン表面およびムチンへの接着性が高いことがわかった。また、抗菌性食品添加物である亜硝酸ナトリウム存在下では、NH04株のみ接着量の増加が認められた。一方、フィブロネクチンへの接着性は各株間で大きな差はみられなかった。細胞表層の化学的性質について、NH04は標準株2株に比べて細胞表層のルイス塩基性が強いことが示唆された。これより、NH04株は標準株に比べて高い細胞接着能力を有し、特に亜硝酸ナトリウム存在下で顕著に細胞接着性を増加する仕組みを有していることが示唆された。また、この接着能の高さには、細胞表層の電気的性質の違いが関与している可能性が考えられた。 (2) 25℃と10℃で培養したNH04株のタンパク質を抽出しプロテオーム解析に供した結果、15種の低温誘導性タンパク質が同定された。このうち6種(LEUM_0003、LEUM_0759、RluB、LEUM_1577および2種のCsp)がRNAの修飾・構造形成に関わるタンパク質であったことから、RNAの修飾・構造形成と低温適応の関連が示唆された。また、シグナル伝達を担う分子であるc-di-GMPの合成を行うdiguanylate cyclaseが同定された。c-di-GMPが関わるシグナル経路は、細胞表層にある多糖類や細胞接着分子の生産との関連が知られていることから、接着性の解析の結果と合わせて、低温適応におけるdiguanylate cyclaseの低温誘導的な発現の重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食品変敗微生物の食品上での繁殖に関連する固体表面への接着性について重要な知見が得られ、また、食品変敗微生物の低温での増殖に関与すると考えられる新しい低温誘導タンパク質の同定にも大きな進展があった。一方、遺伝子操作系の開発においては、形質転換効率の向上などには成功しているものの、遺伝子破壊系の構築には至っていないため、「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
新たに同定された低温誘導タンパク質の機能解析、特に低温適応への関与を調べ、これらをターゲットにした増殖抑制法の開発や早期検出法の開発を進める。各種タンパク質の機能解析に重要な遺伝子破壊系の開発を重点的に行うとともに、低温増殖能に優れた微生物を宿主としたタンパク質の生産系開発も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
食品変敗微生物の遺伝子操作系開発において、本菌の形質転換が予想以上に困難であり、形質転換効率を高めるための検討に時間を要した。そのため、形質転換系確立後に行う予定であった遺伝子破壊系の開発を次年度に行うこととしたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
主として、食品変敗微生物の遺伝子破壊系開発に必要な遺伝子工学用試薬や培養用試薬などの消耗品の購入に使用する計画である。
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