研究課題/領域番号 |
15K14732
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低温増殖性細菌 / 食品変敗 / 低温適応機構 / タンパク質生産 |
研究実績の概要 |
(1) 変敗食肉加工品より単離されたLeuconostoc mesenteroides NH04株は、優れた低温増殖性をもつことから、熱安定性の低いタンパク質や常温では宿主に毒性を示すタンパク質などの生産宿主として期待される。本菌を宿主とした発現系に有用なベクター(形質転換効率と宿主内での安定性の高いベクター)の構築を進めた。本菌固有のプラスミドを見いだし、その塩基配列を決定して複製に関わる領域を推定した。この領域を、pUC19のori配列を含む領域、およびエリスロマイシン (EM) 耐性遺伝子と融合し、新規ベクターpUCNH04Eを構築した。pUCNH04EをNH04株およびL. mesenteroides標準株 (ATCC8292株とNBRC3832株) にエレクトロポレーション法により導入した。形質転換効率は、3株いずれにおいてもpGK::nucMCS(従来用いられてきたE. coli-L. mesenteroidesシャトルベクター)よりも高く、NH04株では約10倍高いことがわかった。また、pGK::nucMCSの保持率が培養36時間の時点で3株いずれにおいてもほぼ0%であったのに対し、pUCNH04Eは標準株2株においては約40%、NH04株においては90%以上の高い保持率であった。以上から、pUCNH04EはNH04株を宿主とした異種タンパク質発現系用のベクターとして有用と考えられた。 (2) アジの腸内から分離した低温増殖性細菌Shewanella sp. HM13が優れた膜小胞生産性をもつことを見いだした。この膜小胞の主成分である49 kDaのタンパク質の一次構造を明らかにするとともに、膜小胞への移行に関与する遺伝子を見いだした。本タンパク質の膜小胞移行機構を利用することで、膜小胞をプラットフォームとしたタンパク質生産系の開発が可能になることが期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
L. mesenteroides NH04 株用のベクターについて、形質転換効率の改善と保持率の向上に成功するなど、本菌を宿主としたタンパク質生産系の構築に向けての大きな進展があった。また、食品由来の新たな低温増殖性細菌を分離し、本菌が優れた膜小胞生産能をもつことや、膜小胞にタンパク質が移行する機構の一端を明らかにするなど、膜小胞をプラットフォームとした新しいタンパク質生産系の開発に向けても大きな進展があった。一方で、L. mesenteroides NH04 株について、本菌の低温適応機構の解析などに重要な遺伝子破壊系の確立には至っていないことから、「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに得られた知見に基づいて、優れた低温増殖能をもつ細菌を宿主としたタンパク質低温生産系の開発を進める。また、食品変敗を引き起こす低温増殖性細菌について、低温誘導性タンパク質の網羅的同定とともに、それらの遺伝子破壊などによる機能解析、特に低温適応への関与を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
食品変敗性細菌の低温適応機構解析において、当初、今年度に低温誘導性タンパク質の遺伝子破壊を行い、その低温適応への関与を調べる計画であったが、遺伝子破壊系の確立に予想以上の時間を要したため、それらの実験を次年度に行うこととし、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
主として、食品変敗性細菌の低温誘導性タンパク質の機能解析に必要なタンパク質実験用試薬、遺伝子工学用試薬、培養用試薬などの消耗品購入に使用する計画である。
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