認知症は高齢期に見られる神経変性疾患であり,特にアルツハイマー病は脳内にアミロイドβ(Aβ)が蓄積し,認知障害や行動能力の低下を引き起こす。認知症の患者数は年々増加しており,糖尿病の合併症と考えられている。しかし,現在適切な自然発症型のモデル動物がおらず,認知症の治療法は確立されていない。一方で,外因性高コレステロール血症(ExHC)ラットは糖代謝異常を呈し,学習能力が低いことが明らかとなっている。本研究ではExHCラットが認知症のモデル動物となるか起源系統であるSDラットとの比較実験を行った。 22週齢ExHC/TaおよびSD/JclラットをAIN-76組成に準じた食餌で2週間飼育し,飼育8日目に経口糖負荷試験(OGTT)を行った。飼育終了後,血清,血漿及び各臓器を摘出した。大脳皮質中のAβ(1-42)濃度をELISA法で測定し,認知症状態を確認した。また,認知症発症メカニズムを探るため,4週齢のラットを2週間飼育し,脳の糖代謝および脂質代謝を評価した。 高齢ラットへのOGTTにおいて,ExHCラットでは有意な高血糖状態を示した一方で,血清インスリン濃度は有意な低値を示した。高齢ExHCラットの大脳皮質中Aβ(1-42)濃度は有意な高値を示した。これより高齢ExHCラットはインスリン分泌不足による糖代謝異常を呈し,脳内でAβ(1-42)が蓄積したことから認知症を発症していることが示唆された。若齢ラットへのOGTTにおいて,ExHCラットの血糖値は0分時で有意な高値を示し,血清インスリン濃度も有意な高値を示した。これよりExHCラットは加齢に伴い2型から1型糖尿病へ移行することが示唆された。若齢ExHCラットの脳内のグルコース濃度は有意な低値を示し,脳内へのグルコースの取り込み悪化が認知症の進展に影響を及ぼすことが示唆された。
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