研究課題/領域番号 |
15K14737
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
薩 秀夫 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (80323484)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トランスポーター / グルコース / 糖尿病 / SGLT2 / 腎臓 / 食品因子 |
研究実績の概要 |
今日社会問題となっている生活習慣病の中で、糖尿病は特にその患者数の増加が懸念されている。それに対し糖尿病の新たな治療薬として、腎臓におけるグルコース再吸収トランスポーターであるナトリウム共輸送型グルコーストランスポーター2(SGLT2)の阻害薬が近年開発・承認されている。しかしながらSGLT2を阻害する食品成分の解析は未だなされていないのが現状である。そこで本研究ではSGLT2を阻害する食品成分の探索・解析を目的とした。 まずSGLT2活性を評価しうるヒトSGLT2安定高発現細胞株の構築をすすめた。ヒトSGLT2発現ベクターをCHO細胞に遺伝子導入し、抗生物質にて選抜した後、限界希釈法を用いてシングルクローンを獲得した。得られた82個のシングルクローンについてグルコースアナログである2-デオキシグルコース(2-DG)取込活性を測定した結果、2-DG取込活性が高くかつ増殖能の高い8個のクローンを選抜した。さらに8個のクローンについて、ナトリウム依存的な2-DG取込活性を測定し、最終的に最もナトリウム依存的2-DG取込活性の高いシングルクローン(4B7)を獲得した。4B7クローンではヒトSGLT2のmRNA発現が確認され、またその2-DG取込活性はSGLT阻害剤であるフロリジンによって有意に阻害され、安定なヒトSGLT2活性評価系の構築に成功した。次にSGLT2活性を測定する際の最適条件を検討することとし、その結果SGLT2活性は細胞数4.0×105(cells/well)で播種し、2-DG濃度2mMで10分間インキュベートという条件で測定することとした。本条件でSGLT2活性を阻害するフィトケミカルをスクリーニングしたところ、カテキン類の一種であるエピカテキンガレートがSGLT2活性を阻害することを見出した。現在さらにSGLT2活性を阻害するフィトケミカルを探索中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度であるH27年度では、動物培養細胞株を用いて安定なSGLT2活性評価系の構築をおこなった。その結果SGLT2を安定に発現したCHO細胞株を構築することに成功した。また構築したヒトSGLT2安定高発現細胞を用いたSGLT2活性測定の条件検討をおこない、添加する2-DG濃度、播種する細胞数、2-DGのインキュベーション時間などについて最適な条件を確立することができた。さらにSGLT2阻害活性を有するフィトケミカルの添加濃度などスクリーニング条件の検討も進めた後実際にスクリーニングを開始し、その結果カテキン類の一種であるエピカテキンガレートがSGLT2活性を阻害すること見出した。現在さらにスクリーニングを続けている段階である。またエピカテキンガレートはじめ今後見出されることが予想されるフィトケミカルによるSGLT2阻害の特性・作用機序を解析するために、pull downアッセイの準備などを進めている。並行して、SGLT2阻害活性が見出されたフィトケミカルによるグルコースの再吸収抑制がin vivoにおいてもみられるかどうかについて、現在糖負荷試験などマウスを用いた予備実験も開始している。以上より、本課題については現在までのところおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度ではさらにスクリーニングを進め、新たにSGLT2阻害活性を有するフィトケミカルを見出すとともに先に見出されたエピカテキンガレートなどとその阻害特性や阻害様式を解析する。具体的にはSGLT2を阻害するフィトケミカルが他のグルコーストランスポーターであるSGLT1やGLUT5、あるいはペプチド・アミノ酸トランスポーターといった他のトランスポーターに及ぼす影響を検討する。またKinetics解析をおこない、Vm値およびKm値の変化についても検討する。また見出されたフィトケミカルの構造類似体を用いて構造活性相関をおこない、SGLT2活性を阻害するのに重要な官能基などを明らかにする。またフィトケミカルがSGLT2と直接結合するかなどpull downアッセイなどを用いて、分子レベルで解析をすすめる。さらにこれらのフィトケミカルがin vivoにおいても血糖値の増加を抑制するかを、糖負荷試験並びに糖尿病モデル動物などを用いて検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
安定な遺伝子導入細胞株の構築に際して、高額試薬の使用が予定よりも少ない量で済んだため、全体として経費が少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
細胞培養に関する消耗品及び作用機序解析における分子生物学・生化学的解析に必要な試薬、キットなどの購入を予定している。また実験動物および動物実験器具の購入も予定している。さらに情報収集・成果報告のための学会参加・発表に係る旅費、論文の投稿料、英文校閲料などにも使用予定である。
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