研究課題/領域番号 |
15K14738
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
小西 康子 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (80129238)
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研究分担者 |
小椋 賢治 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (50270682)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酵素反応 / 呈色反応 / ペプチド |
研究実績の概要 |
申請者らは、チロシナーゼとチロシン残基を含むペプチドとの反応を研究する過程で、アミノ酸共存下で反応を行ったのち凍結保存すると、反応液は様々な色を呈するようになることを見出した。しかし、本反応の詳細は不明である。一方、緑色は食品を美しく彩り、その魅力を増して食欲をそそる色合いとして好まれ、多くの食品に利用されている。消費者の安全性志向から天然系色素の使用が求められている中で、緑色に関しては不安定なクロロフィル以外の天然型色素は無いのが現状である。本研究では、メラニンのように赤や茶といった色しか知られていなかったチロシナーゼの酵素化学反応を利用し、緑を中心とした、食品に使える様々な色素を作り出す技術を開発することを目的としている。初年度の平成27年度では、モデルペプチドとして、チロシン残基を1つ含みN末端がアセチル化されたトリペプチド(Ac-YVG)とチロシナーゼを、グリシン共存下で反応させて生じた青色反応溶液から呈色物質を精製し、構造解析を実施した。 1.反応に必要なチロシナーゼの精製:タンパク質中のチロシン残基に対して活性が高いチロシナーゼを、研究代表者の方法(Biosci. Biotechnol. Biochem. 71 (2007) 1752-1760)を用いてナメコ子実体から精製した。 2.呈色物質の分離精製: 4種類のHPLC分析用カラムを用いて、反応液から呈色物質の分離精製を検討した。最も分離が良かったC18カラムでスケールアップ化を図り、4つの溶出ピーク(①~④)を得た。メインピークの①は青色、②は薄い赤色、③と④はごく薄い赤または青色であった。 3.青色呈色物質の構造解析:①を分取し、吸収スペクトル、蛍光スペクトル、質量分析、NMR測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本呈色反応では、Ac-YVGペプチド中のチロシン残基がチロシナーゼにより酸化されて生成した反応性の高いドーパキノンに、グリシンのアミノ基が結合して青色色素が形成されたと考えている。そこで、溶媒に0.1 %のTFAを加えてペプチド中のカルボキシ基を非解離の状態にし、色素をC18カラムに吸着させて精製を行った。得られた青色物質は、600 nm付近に強い吸収と赤色蛍光を呈すことから、複素環構造をもつと考えられる。 MS分析の結果、質量840と898が検出された。MS/MS分析では、質量840と質量898の分解物はほとんど同じであり、また質量898の分解物の中に質量841が検出された。質量840は、Ac-YVGペプチド2つとグリシンが1つ架橋した構造をもち、質量898はAc-YVGペプチド2つにグリシンが2つ架橋した構造をもつと予想される。 NMR測定では、1H一次元スペクトルにおいて、CH3基とCH基に相当する化学シフト値に鋭く大きいシグナルが観察された。HMBC法による1H/13C二次元スペクトルにおいては、CH3基、CH基、COO基がそれぞれに結合しているシグナルが検出され、他の官能基との結合は観察されなかった。1H一次元スペクトルのシグナル強度から判断して、低分子不純物の存在が示唆された。そこで、青色呈色物質をゲルろ過クロマトグラフィーにかけたところ、青色の溶出前に緑色が溶出された。緑色、青色、青色溶出後の無色溶出液について1H-NMR分析を行ったところ、緑色と青色にはアセチル基と芳香環のシグナルがなく、一方、無色の溶出液には芳香環のシグナルが検出された。以上の結果から、青色呈色物質の分離精製にはC18カラムとゲルろ過による精製が有効であり、本法を用いて精製を進めることで青色呈色物質の構造解析が可能であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
①呈色物質の構造を決定する: 27年度と同様にC18カラムとゲルろ過を用いて精製した青色呈色物質について、質量分析、1H、13Cおよび二次元NMR測定を行い、構造を決定する。 ②呈色物質生成の反応メカニズムを明らかにする: チロシナーゼとの反応時間、凍結時間、pH、凍結温度、凍結溶液の誘電率などの条件を変えて得られた呈色物質を分離精製し、NMR等を用いて構造解析を行う。これらの結果から、凍結中に進行する点が非常にユニークである本呈色反応の特徴を明らかにし、反応メカニズムを提唱する。 ③新たな呈色物質を調製する: 予備実験的に、呈色反応の色調はチロシンを含むペプチドの長さやアミノ酸配列によって、また、添加するアミノ酸の種類によって異なることが分かっている。そこで、ペプチドの長さやアミノ酸配列、含まれるチロシン残基の数を変えて種々のペプチドを合成し、まずグリシンとの呈色反応について検討し、次に種々のアミノ酸との呈色反応について検討する。得られた結果から、ペプチドのアミノ酸配列とアミノ酸との組み合わせにより、どのような呈色が得られるのかを明らかにする。次に食品タンパク質を加水分解して得られたペプチドを基質として、種々のアミノ酸存在下でチロシナーゼを作用させたのち凍結する。呈色反応がおこる条件を検討し、新たな呈色反応物質の調製を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
呈色物質の分離精製において、C8カラムを用いた精製標品について構造解析を実施したが、さらにゲルろ過での精製が必要であることが判明した。新たに青色反応液を調製して精製をし直す必要が生じ、次段階の実験へは進まなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ペプチド、溶媒、実験消耗品、委託分析費用に使用する。
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