チロシナーゼは分子状酸素を用いてチロシンを2段階で酸化する。生成したキノンは反応性が高いため、種々の求核性基と非酵素的に結合することが知られている。我々は、ペプチド中のチロシン残基をチロシナーゼ触媒によりキノン化しアミノ酸と反応させ凍結すると、黄、緑、青などの種々の呈色反応が起こることを見出した。凍結下で進行するこの呈色反応は、新しい天然系色素の生産技術開発につながると期待できる。 ペプチド結合中のチロシン残基への反応性が高いチロシナーゼをナメコ子実体から精製し、基質ペプチドN-acethyl-Tyr-Val-Gly とアミノ酸と反応させた。限外ろ過膜を用いて反応液からチロシナーゼを除去した後、pHを調整し凍結保存することで呈色させた。反応液をHPLCで分離し吸収スペクトルを測定した結果、緑色の呈色は黄色と青色の混合によることがわかった。黄色の天然色素は多いが青色は少ないことから、青色呈色に着目し、その構造解析を行った。NMRによる解析を試みたが、構造決定には至らなかった。そこで,種々のアミノ酸との反応液についてLC/MS/MS測定による構造解析を行って比較したところ、青色呈色物質を構成している基本構造が明らかになった.次に、反応中間体の検出を検討した。反応液をグリセリン存在下で凍結すると呈色反応速度が遅くなり、反応中間体が検出可能であった。HPLC、LC/MS、LCMS/MSによる解析を行った結果、反応中間体はキノン化した基質ペプチドにアミノ基が結合した構造をもっていた。すなわち本呈色反応において、チロシナーゼによりTyr残基が酸化されて生成したo-キノンに、アミノ酸のアミノ基が求核攻撃して中間体が生成する。凍結下ではo-キノンや中間体が安定化することで、さらにアミノ酸分子が反応して複素環が形成され、青色呈色物質が生成する反応機構が提唱できる。
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