研究課題/領域番号 |
15K14746
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
森 茂太 山形大学, 農学部, 教授 (60353885)
|
研究分担者 |
石田 厚 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60343787)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 個体呼吸 / 個体光合成 / システミック制御 |
研究実績の概要 |
マクロに見た森林生態系には不均一環境が常に存在し、ここに個体成長、枯死のダイナミクスが生じる。こうしたダイナミクスの基盤となる根を含む樹木全体の個体生理機能(光合成・呼吸)の大半は1枚の葉などのミクロな情報からの推定であり、ミクロとマクロの間の理解には高い壁がある。理由は、ミクロとマクロの中間にある(変異性や可塑性の高い)樹木個体の効率的で正確な実測によるシステミックな(全身的な)生理学データや研究がないためである。そこで我々は、従来困難とされる光合成の同時測定法を開発して実測し、さらに根を含む個体全体の器官別呼吸も独自に開発した方法で多数実測し、個体機能量(光合成・呼吸)を評価、検討することを目的として研究を開始した。 研究開始初年度は、樹木個体全体の呼吸と光合成の測定装置の開発と検証を行った。本計画では、多数の樹木を測定する必要があるため、光合成速度は対象の樹木個体の光合成が光飽和した際の最高値Amax(μmolCO2/sec)を個体光合成速度の指標として用いた。計画2年目は、山形大学農学部構内のオニグルミ林の林床に天然更新している成長2年目の稚樹20個体(種子貯蔵炭素を使い果たし、各個体の環境に適応した)を材料にもちいた。材料とした各個体の置かれた相対的な光環境を光量子センサーで評価したところ9~53%の幅であった。この光環境に応じた個体全体の呼吸Rと個体のAmaxを検討した。 Amax/Rの値は個体の置かれた環境に関係なくほぼ一定の値であり、暗い環境に置かれた個体が呼吸超過で枯死する兆候は見られず、それぞれの環境で個体の炭素収支は枯死しないように個体レベルで調整されている可能性がある。また、暗い環境にあり従来被陰され競争に負けたとされる個体であっても、光合成の低下に合わせてコストである呼吸を抑制することで環境に応じて枯死を回避しているのであろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度(研究開始初年度)は、樹木個体全体の呼吸と光合成の測定装置を作成して、正確に多数の個体で測定が可能であることを検証した。野外で生育する樹木は樹冠が様々な形状をしており、こうした個性的な形状の樹木を測定できるチャンバーを検討した。その結果、CO2のリークの少ないポリエチレンの袋が適当であった。特に今回は、多数の樹木を測定する必要があるため、光合成速度は対象の樹木個体の光合成が光飽和した際の最高値Amax(μmolCO2/sec)を評価した。林床の樹木で、この値を測定するためLED光源を個体の上部に設置して測定を行った。この方法で効率よく多数の個体のAmaxを測定することができた。さらに、個体Amaxの測定後、個体全体を丁寧に掘り出して個体全体の呼吸速度を閉鎖方式の個体個呼吸測定専用のチャンバーで測定した。このように、初年度は個体レベルのAmaxとRの同時評価方法を概ね確立できた。 平成28年度は、鶴岡市の山形大学農学部構内のオニグルミ林の林床に天然更新している種子貯蔵炭素を使い果たした成長2年目の稚樹20個体を材料にもちいた。それぞれの稚樹の置かれた光環境に応じた個体全体の呼吸Rと個体のAmaxを評価した。Amax/Rの値は個体の置かれた環境に関係なくほぼ一定の値であり(明環境と暗環境でそれぞれAmax/R=4.66±1.6、4.89±1.9、それぞれn=10)、暗環境に置かれた個体が呼吸超過で枯死する兆候は見られず、光合成の低下に合わせて呼吸抑制を行っていた。 以上のように個体全体の光合成と呼吸が光環境とともにどのように変動するかについて2年目の年度計画の目標をおおむね達成した。このため(2)の自己評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
28年度に個体光合成(Amax)と呼吸測定にもちいた稚樹は野外に生育する生育2年目の個体であり、これら個体のそれぞれの相対環境の幅は9~53%であった。 本年度は、2年生稚樹を鉢植えにした個体を野外に設置して、光環境の幅をさらに広げる実験を計画した。個体が枯死する寸前の暗い値とともに100%に近い光環境を設定する予定である。これによって幅広い相対的光環境の樹木個体のAmax/Rを検討する予定である。 また、28年度は種子貯蔵炭素を使い果たした1年生稚樹(生育2年目)を用いたが、29年度は当年生稚樹(生育1年目)も用いる予定である。理由は、当年生実生は種子貯蔵炭素に依存した成長を行うためたとえ光環境が低くても成長できるため、稚樹の光環境に影響を受けず成長できる可能性があるためある。このように生育1年と2年目の生育段階によって、AmaxとRの関係は変動すると予想した。こうした齢による個体機能の違いの検証を行う予定である。 樹木個体では、種子から発芽後、実生や稚樹の死亡率は高い。また、種子サイズも成長初期の稚樹の生理特性に影響する。種子サイズや齢、置かれてきた光環境の過去履歴など様々な要因が個体の生理機能を左右していると考えらえる。最終年度はオニグルミにとどまらず可能な限り多くの個体で検証を進め、「1枚の葉の生理機能」―「個体生理機能」の両者を結び付ける研究を行うことで、樹木生理研究と樹木個体群動態を連結させて検討する方向で検討を重ねる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画を遂行する中で予想外の現象を定量化することができた。このため、これを定量化するため予定を変更して根系解析装置を購入したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度は、個体光合成の値と1枚の葉の光合成の検証なども計画しており、1枚の葉の光合成を測定する装置のメンテナンスや、呼吸を測定する赤外線分析計のキャリブレーションなどに予算を使用する計画である。
|