カシノナガキクイムシの飛翔行動と寄主への反応について、以下の3点を明らかにする目的で研究を行った。 【1】羽化脱出後の飛翔方向と光環境との関係 【2】飛翔行動にみられる性差と集合フェロモンの影響 【3】飛翔前後での光と寄主木に対する反応の変化 【1】については野外で粘着トラップを前年度枯死木の周辺に立体的に配置し、羽化脱出個体の捕獲を試みた。その結果、相対照度が高い方向で羽化脱出個体が捕獲できたものの、その総数はわずか2頭で、飛翔方向と光環境との関係を考察するまでには至らなかった。この結果は2017年3月の学会で発表した。【2】についてはフライトミルを利用して室内実験を行ったところ、飛翔距離は最大で27.3km、個体間のばらつきが大きく、メスの方がオスよりも長かった。また、集合フェロモン存在下ではカシノナガキクイムシの飛翔速度は変わらないものの飛翔距離がオスでもメスでも長くなることを明らかにし、2016年3月の学会と2017年3月の学会で発表した。【3】についても室内実験を行い、フライトミルに取り付けて飛翔させる前と後で光に対する反応を比較した。その結果、飛翔前と比べて飛翔後にはカシノナガキクイムシの正の走光性が低下することが明らかとなり、2016年3月の学会で発表した後に論文を発表した。また、カシノナガキクイムシをフライトミルに取り付けて飛翔させる前と後で寄主であるミズナラの葉からの揮発性物質に対する反応をオルファクトメーターで比較した。比較は様々な乾燥状態の葉(新鮮な葉と採取してから1~9日経過した葉)間でも行った。その結果、カシノナガキクイムシは新鮮な葉からの揮発性物質には誘引されるものの枯れて乾燥し始めた葉からの揮発性物質は忌避すること、飛翔の前後で葉からの揮発性物質に対する反応は変化しその様式はオスとメスで異なることが明らかとなった。
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