研究課題/領域番号 |
15K14756
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大手 信人 京都大学, 情報学研究科, 教授 (10233199)
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研究分担者 |
磯部 一夫 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30621833)
小山 里奈 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (50378832)
徳地 直子 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60237071)
Vincenot C.E. 京都大学, 情報学研究科, 助教 (80751908)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 窒素循環 / 窒素飽和 / 窒素流出 / NO3- / モデル / 安定同位体比 |
研究実績の概要 |
森林における窒素飽和現象の診断には、その森林に降下物として流入する窒素量と、渓流・河川を通じて流出する窒素量の情報が用いられる。これは、窒素飽和現象が多くの場合、土壌中、地下水中に滞留する窒素量と流出する窒素量の増加を伴う事による。モデル化に際して、集水域を対象とする窒素流出に関するデータの収集は不可欠であり、できるだけ地理的に広範な情報が必要となる。本年度は、集水域レベルのハイブリッドモデルの開発を念頭において、全国レベルの広域サンプリングで得られた渓流水試料について、流出窒素の量と質に関するキャラクタリゼーションを実施した。流出する窒素の形態、量などから、森林生態系が窒素飽和現象に至る過程のどのようなステイタスにあるかの情報を得ることができる。形態の特徴を示すパラメータとして、全窒素濃度に対するNO3-濃度の比、流出NO3-の起源情報として、NO3-の酸素のΔ17Oが測定された。調査地は関東地方西北部、近畿、中国、四国、九州地方の渓流855地点で、上流に人為発生源のない地点で、サンプリングは平水時に行われた。関東西北部では、窒素飽和の進行とともにNO3-濃度と大気由来NO3-の含有率がともに増加することが示された。他方、近畿地方で窒素負荷量の低い地域では、集水面積の小さい地点で、大気由来NO3-の含有率が高い地点が見られた。このことは、集水域のスケールによって、大気由来NO3-の流出のしやすさが変わることを示唆していた。また、どの地域においてもNO3-濃度が高い地点でも大気由来NO3-の含有率は高くても10%程度で、窒素飽和状態であっても、降下物としてもたらされたNO3-が渓流に直接流出する時空間的機会は極少なく、渓流水中の大部分のNO3-は土壌中でのリサイクルを経て流出していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に進んでいる。上記、モデル作成に必要な全国レベルの渓流水の流出NO3-に関する質的情報が集積することができ、先年の広域土壌窒素ダイナミクスと合わせて、今後のモデル開発とパラメタリゼーションに地理的一般性を持たせることができる。 これらに加えて、本年、豪雨などの極端気象現象下の森林集水域からの窒素流出に関する国内外の研究をレビューした。地球温暖化に伴う気候変動の影響で、我が国でも豪雨などの極端気象現象の生起頻度が過去40年間顕著に増加していることが明らかになっている。これによって森林生態系からの窒素流出がどのように変動しているかについての実証的研究は現時点では限られており、今後必要となる将来予測には情報が不足していると言わざるを得ない。窒素飽和現象の進行と極端気象・気候現象の増加は、すでに重複して生じており、それらの窒素動態の影響は、モデルを作成する上で十分な考慮が必要となる。これに関して本年度行ったレビューは、上記のアプローチに有用な情報を提供することができる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、平成28年度から着手しているモデルの構築を本格化させる。これまでに収集した、全国の土壌窒素ダイナミクスと、それに関わる土壌微生物群集の構造についての情報、森林渓流の流出窒素の形態に関する広域情報を踏まえて、想定しているハイブリッドモデルの作成を作成する。このために、システム・ダイナミクスの手法を用いたN 動態のサブモデルを、生態系を構成するランドスケープの形態を念頭に置いて配置し、各サブモデルをエージェントとしたモデルを構築する。サブモデル内のシステム・ダイナミクスは、N 動態を構成する有機態N の無機化、硝化、不動化、脱窒の各過程とそれを制御する微生物群集、それらがディペンドする水文・生物地球化学的環境の影響を記述する。近接するサブモデル間の相互作用(物質の移動、微生物の移動などを含む)を考慮する。エージェント・ベースモデルで一定の空間スケールの生態系を表現することを企図し、サブモデルの連関のメカニズムを定義する。最も顕著な連関として考えられることは、水移動に伴うN 動態に関わる基質、生成物、微生物そのものの移動、ガス態でのサブモデル間の物質の移動などが考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遂行のために必要な物品の購入を計画通り進めたところ、特に消耗品で見積額よりも低額ものが購入でき、38円の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、配分のある物品費に加えて使用する予定である。
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