研究実績の概要 |
当初計画では、デイゴヒメコバチ寄生後のデイゴの衰退・枯死現象の進行プロセスを明らかにする予定であった。しかし本研究の途上で、枯死原因としてFusarium solani種複合体(FSSC)に属する菌が関わる可能性を発見し、H28年度から病原菌候補菌の接種実験およびDNA解析による種の同定作業を追加して実施した。H29年度はH28年度に引き続き、衰退木から優占的に検出される菌の病原性の確認と、その菌株の分類学的な位置を推測するためのDNA解析を実施した。H28年度の接種実験に用いたFSSCのStrain Aとは1塩基のみ異なるStrainBを用いて、デイゴの健全苗木に接種実験を行った。 研究結果:Strain B(沖縄島および石垣島起源)を健全苗木の根元に接種し、その後の落葉および枯死への病徴進展から、この菌株Strain Bも病原性を有することが明らかになった。この結果から、デイゴの衰退・枯死はFSSCに属する菌による萎凋病(新病害)である可能性が高いと判断した。防除方法としては、殺菌剤の施用が望ましいと考えられ、衰退木に樹幹注入を行ったが、経過観察中である。石垣島と沖縄島の400km離れた場所で同じ遺伝子配列(ITS領域)の菌が採取されたこと、沖縄島内で数十Km離れた3か所からStrain A,Bの両方が検出されたことから,広域で病原菌の潜在感染が起こっている可能性がある。DNA解析によって、この菌株A,BはFSSCのAmbrosia Fusarium Cladeに属すことが判明し、養菌性キクイムシとの共生が示唆された。Strain AとBの近縁種では、Euwallacea 属の養菌性キクイムシが媒介者として知られており,石垣島と沖縄島のデイゴから同属キクイムシの数種が発見された。今後さらに研究を発展させて、共生関係の解明と防除手法の開発が必要である。
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