研究実績の概要 |
シリカ含有木材を炭化すると、フィラメント状の炭素物質Cone-shaped graphitic whisker (CGW)が、細胞の内腔に成長する。この炭素フィラメントの成長には従来の炭素材料製造と異なる特殊な反応場条件を要したため、応用はおろか基礎物性の研究がこれまで殆ど進んでいない。このフィラメント状の炭素物質にある処理を加えると、温度や電子線に応答した可逆伸縮動をするモバイル材料となることを見出しており、本研究ではこのモバイル機構について解明し、分子篩・蓄電・電池電極等、インテリジェント素材への設計を探ることを目的とした。 まずCGWは、グラフェンが旋回円すい状に堆積した、炭素超分子であることを、高分解能電子顕微鏡像から結晶学的手法により実験的に示した。これまで理論から演繹されていた旋回円すい構造について実験的に示されてその構造と、欠陥までを含めた細部に関して明らかとなったことは、後述のモバイル機構について考察するうえで前提となる、重要な知見である。この成果はJ. Crystal Growth誌に論文掲載した。 これまでの研究では、細胞内腔を反応容器として電気化学的加工により得られるCGWの硫酸層間化合物(IC)が、可逆伸縮動することを見出していた。今回、共同研究により、気相による挿入でCGWのFeCl3, MoCl5、AlCl3-CuCl2層間化合物を初めて合成した。高分解能電子顕微鏡観察により、層間挿入と可逆伸縮動を直接的に観察した。特にMoCl5によるIC-CGWは安定で、伸縮幅は硫酸IC-CGWを数倍上回って顕著に観察された。これらのIC-CGWを比較検討することで、らせん状に連なった円錐の中心が掛け金状に層同士を繋ぎ留めて拘束し、分離することを妨げるなどの、モバイル機構の一部が解明された。
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