研究課題/領域番号 |
15K14767
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋山 拓也 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (50553723)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リグニン / 還元 / 立体化学 / メチレン |
研究実績の概要 |
リグニンを構成するフェニルプロパン単位の側鎖部分にはα、β位の2種類の不斉炭素が含まれる。それぞれの不斉炭素はRとS配置の両者で構成されているため、高分子構造には多数の立体異性体が含まれる。本研究の目的は、1. 還元処理によりリグニンの不斉炭素を半減させること、次にこの還元処理により立体異性を起因とする構造の複雑さを解消することで、2. リグニンのNMRスペクトルがどの程度単純化し、化学構造をどの程度詳細に解析可能かを明らかにすることにある。本計画は、1. 側鎖β位、および芳香核5位、4位、1位の結合を保持したまま、α位不斉炭素を選択的にメチレン基へ還元する手法の確立、2. 単純化された還元リグニンのNMR構造解析、で構成される。
H27年度、リグニン2量体モデル化合物のシリルヒドリド還元処理により、β-O-4構造のα位不斉炭素(ベンジル位炭素)がメチレン基へ還元されることを確認した。H28年度は、木粉から単離リグニン(MWL)を調製し、MWLのシリルヒドリド還元処理を行い、メチレン基の導入量をオゾン分解法で評価した。その結果、α位メチレン型β-O-4構造由来の生成物として予想した3,4-ジヒドロキシブタン酸は得られなかった。また還元処理の前後でβ-O-4構造のオゾン分解生成物(erythronic acid とthreonic acid)の収量に目立った違いが無いことから、MWL試料でα位の還元反応がほぼ進まなかったと判断した。H29年度は、シリルヒドリド還元反応の反応条件についてモデル化合物を用いて検討した結果、溶媒の種類が反応の進行に大きく影響することが判った。また、α位メチレン型β-O-4構造の2量体モデル化合物からオゾン分解により3,4-ジヒドロキシブタン酸が7割強の収率で得られたことから、還元処理の定量的評価法としてオゾン分解法を使用できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
リグニン試料をα位メチレン化するための還元反応条件の検討に想定以上の時間を要しているため、研究計画の進捗状況が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度にモデル化合物を用いた実験で、還元反応に対する反応溶媒の影響に関する情報が得られた。H30年度は、この知見を踏まえ、リグニン試料について反応溶媒を変えてα位メチレン化反応の反応条件の検討を行った後、計画の基本路線に変更は加えず、優先度の高い項目から実験を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) H27-H29年度に計画していた未完了のモデル化合物の化学合成およびその還元処理をH30年度に予定している。これらの実験に使用する試薬やガラス器具等の消耗品の購入、およびNMR装置使用料の支払いの必要があるため。 (使用計画) モデル化合物の化学合成およびその還元処理に必要となる試薬やガラス器具等の消耗品の購入、NMR装置使用料の支払い、およびH29年度に予定していた物品費、旅費、謝金に使用する計画である。
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