植物が生産するセルロースは,ミクロフィブリルから単繊維までの高度な階層構造より構成されている。ゆえに,強固な結晶構造を有し、酵素分解に対しても抵抗性を示す。酵素分解の補助因子として,近年セルロース繊維の膨潤能を有し,セルラーゼと相乗効果を示すタンパク質としてSwolleninが見出された。我々は,本タンパク質が弱いセルロース分解活性と高いセルロース繊維への吸着能を示し,吸着処理後に超音波処理を行うことで,セルロース繊維の微細化が進むことを明らかにした。本研究では,Swolleninのセルロース繊維膨潤能について立体構造的な観点から調べるために,一次構造からドメイン構造を推定し,Pichia pastorisを発現宿主に用いて部分領域の異種発現を試みたが,可溶性のタンパク質として生産するには至らなかった。そこで,異種発現生産した全長の成熟タンパク質を用いて,構造の異なるセルロースへの作用について,走査型及び透過型電子顕顕微鏡を用いて表面観察を行うことにより調査した。また,セルラーゼとの相乗的な作用についても併せて検討を行った。その結果,天然のⅠ型のセルロース繊維,特にパルプに対しては繊維のフィブリル化による高次構造の崩壊の様子が観察されたが,Ⅱ型の再生セルロースに関しては膨潤能やフィブリル化は観察されなかった。SwolleninはⅠ型のセルロースのミクロフィブリルの束の間の緩みを誘発して,繊維の膨潤を行うものと考えられたが,再セルロースのような均一な構造のものに対しては,活性を示す作用点がないことが原因であることが示唆された。このことから,Swolleninの作用は水素結合の多さや結晶構造の強さに起因せず,構造の不均一性に関係するものと考えられた。
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